社会保険と雇用保険は、しばしば混同されます。
社会保険と雇用保険は、それぞれどのようなものを指すのでしょうか?
また、社会保険と雇用保険は、どのような点で異なるのでしょうか?
今回は、社会保険と雇用保険の違いやそれぞれの概要について、社会保険労務士がくわしく解説します。
社会保険とは
社会保険と雇用保険の違いがわかりにくい最大の理由は、「社会保険」ということばの中に雇用保険が含まれる場合があるためです。
「社会保険」は狭義で使われる場合と広義で使われる場合があり、広義の社会保険には雇用保険も含まれます。
一方、狭義の社会保険には、雇用保険は含まれません。
はじめに、狭義の社会保険と広義の社会保険について解説します。
狭義の社会保険
狭義の社会保険とは、次の3つの保険制度を指すことばです。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
この場合において、狭義の社会保険に含まれない雇用保険と労災保険は、まとめて「労働保険」と呼ばれます。
以後、この記事において「社会保険」と記載する際は、狭義の社会保険を指すものとします。
広義の社会保険
広義の社会保険とは、公的な保険制度のすべてを含むことばです。
すなわち、「社会保険」ということばを広義で用いる場合、次の公的保険制度がすべて含有されます。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
つまり、この場合は、雇用保険も社会保険の一つとして捉えられます。
雇用保険とは
雇用保険は、公的な保険制度の一つです。
では、雇用保険とはどのような制度なのでしょうか?
ここでは、雇用保険の概要と計算方法を解説します。
雇用保険の概要
雇用保険とは、労働者の生活や雇用の安定と、就職を促進する保険制度です。
労働者が失業したときには一定の失業給付がなされるほか、公共職業安定所(ハローワーク)において再就職の支援がなされます。
雇用保険は、これらの制度を維持するために設けられています。
労働者と対象とした保険であるため、被保険者は適用事業に雇用される労働者です。
また、事業主は労働保険料の納付や所定の届出などの義務を負います。
一人でも労働者を雇用する事業は適用事業となり、業種や規模を問いません。
雇用保険の計算方法
雇用保険の被保険者は労働者であるものの、保険料は労働者とその労働者を雇用する事業主がそれぞれ負担します。
ただし、それぞれ個別に納付するのではなく、労働者負担分と事業主負担分を事業者が取りまとめて納付します。
雇用保険は、次のステップで計算します。
ステップ1:雇用保険料の計算対象となる「賃金総額」を確認する
はじめに、雇用保険の対象となる「賃金総額」を確認します。
厚生労働省の資料によると、賃金総額に含まれる賃金は、次のものなどがあります。※1
- 基本賃金:時間給・日給・月給のほか、パートやアルバイトなどに支払う賃金。社会保険料や税金などを控除する前の金額
- 超過勤務手当・深夜手当など:いわゆる残業代
- 宿直・日直手当:宿直や日直などをしたことに対する手当
- 技能手当・特殊作業手当:労働者の資格や能力などに対して支払う手当
- 賞与:いわゆるボーナス
- 通勤手当・定期券・回数券:非課税分も対象
- 扶養手当・家族手当など:労働者本人以外の者について支払う手当
- 在宅勤務手当:在宅勤務をしたことで支払う手当
- 住宅手当:家賃補助のために支払う手当
このように、その名称を問わず、給与や手当などは原則としてすべて雇用保険の計算対象である「賃金総額」に含まれます。
一方、次の支給などは、「賃金総額」に含まれません。
- 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金
- 年功慰労金・継続褒賞金
- 退職金
- 出張旅費・宿泊費・赴任手当などのうち実費弁償と考えられる部分
- 休業補償費
- 傷病手当金
- 解雇予告手当
- 会社が全額を負担する生命保険の掛け金
- 持家奨励金(労働者が持家取得のために融資を受けている場合に、事業主が一定額または一定率の利子補給金などを支払う場合)
「賃金総額」に含むか否か迷う場合は、計算を依頼している社労士などへご相談ください。
ステップ2:「賃金総額」に雇用保険料率を乗じる
賃金総額を確認したら、これに雇用保険料率を乗じて雇用保険料を計算します。
雇用保険料率は業種によって異なっており、2024年度は原則としてそれぞれ次のとおりです。
労働者負担分 | 事業主負担分 | 合計 | |
一般の事業 | 1,000分の6 | 1,000分の9.5 | 1,000分の15.5 |
農林水産・清酒製造の事業 | 1,000分の7 | 1,000分の10.5 | 1,000分の17.5 |
建設の事業 | 1,000分の7 | 1,000分の11.5 | 1,000分の18.5 |
社会保険と雇用保険の主な違い
社会保険と雇用保険とは別の制度であり、共通点は次の2点だけです。
- 公的な保険制度であること
- 被保険者と事業主がそれぞれ負担し、事業主がまとめて納付すること
一方、これらには多くの違いがあります。
ここでは、社会保険と雇用保険との主な違いを4つ解説します。
制度の目的
社会保険と雇用保険とでは、制度の目的が異なります。
社会保険の制度目的は、それぞれつぎのとおりです。
- 健康保険:業務外での病気、けが、出産に備えること
- 厚生年金保険:老齢や障害に備えること
- 介護保険:介護を要する事態に備えること
一方、雇用保険の目的は、労働者の生活や雇用の安定と、就職の促進です。
保険の対象者
社会保険と雇用保険では、制度の対象者が異なります。
社会保険の対象者は、原則としてすべての国民です。
一方、雇用保険の対象者は、企業に雇用される労働者です。
加入要件
社会保険と雇用保険とでは、加入要件が異なります。
社会保険(健康保険と厚生年金保険)の加入要件を満たすのは、原則として、次のいずれかに該当する者です。
- 正社員
- パートやアルバイトのうち、次の要件をすべて満たす者
- 厚生年金保険の被保険者数が101人(2024年10月以降は、51人)以上の企業等で働いていること
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 所定内賃金が月8.8万円以上であること
- 2か月を超える雇用の見込みがあること
- 学生ではないこと
一方、雇用保険の加入要件は、雇用主である事業者の規模にかかわらず、次の要件を満たすすべての従業員です。
- 1週間の所定労働時間が20 時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
雇用保険の対象となるか否かに雇用形態は関係なく、パートやアルバイトであっても対象となります。
たとえば、ある個人事業主がパート従業員1人だけを雇っている場合、社会保険の加入義務はありません。
一方で、そのパートスタッフが週20時間以上働いているのであれば、雇用保険には加入すべきということです。
社会保険の加入要件から外れるパートやアルバイトであっても、雇用保険への加入は必要となるケースは少なくありません。
保障内容
社会保険と雇用保険は制度目的が異なるため、保障内容も異なります。
それぞれの代表的な保障内容は、次のとおりです。
種類 | 主な保障内容 | |
社会保険 | 健康保険 | 病気や怪我による医療費の一部負担、傷病手当金、出産育児一時金 |
厚生年金保険 | 老齢年金、障害年金、遺族年金 | |
介護保険 | 介護サービス費用の一部負担 | |
雇用保険 | 失業時の失業給付、育児休業給付金、教育訓練給付金 |
社会保険と雇用保険の違いに関するよくある質問
続いて、社会保険と雇用保険の違いなどに関するよくある質問と、その回答を紹介します。
社会保険と雇用保険は同時加入できる?
社会保険と雇用保険は、同時に加入することができます。
むしろ、(狭義の)社会保険と雇用保険とは別の制度であることから、それぞれの加入要件を満たす以上、両方の制度に加入しなければなりません。
先ほど解説したように、各社会保険と雇用保険とでは、制度目的や保障の内容なども異なります。
「どちらかに加入したら、もう一方には入らなくてよい」などというものではありません。
誤解のないようご注意ください。
社会保険に加入せず雇用保険だけに加入することは可能?
社会保険に加入せず、雇用保険だけに加入するケースもあります。
たとえば、その企業で働く従業員が2名の正社員と10名のアルバイトである場合、原則として正社員とアルバイトはすべて雇用保険に加入しなければなりません(1週間の所定労働時間が20 時間未満である者や、31日以上の雇用見込みがない者は対象外です)。
一方で、従業員数が101人(2024年10月以降は、51人)に満たないため、2名の正社員は社会保険の加入義務がある一方で、アルバイトスタッフは社会保険の加入要件から外れます。
このように、結果的に「社会保険に加入せず、雇用保険だけに加入する」ことはあり得ます。
なお、社会保険や雇用保険は「加入するかどうか」を個々の従業員が自分で決めたり、会社が「加入させるかどうか」を自由に決めたりするものではなく、要件を満たす以上は加入しなければならないものです。
加入要件を満たすか否か分からない場合は、社労士までご相談ください。
社会保険と雇用保険に関する注意点
最後に、社会保険と雇用保険に関する注意点を2つ解説します。
雇用保険と労災保険を混同しない
雇用保険と混同されがちなものに、「労災保険」があります。
雇用保険は労災保険と併せて「労働保険」と呼ばれますが、両者は異なる制度です。
労災保険とは、業務上の事由や通勤による、労働者の負傷や疾病、障害、死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。
労災保険の保険料に労働者の負担分はなく、全額が事業主負担とされています。
また、雇用保険は1週間の所定労働時間が20 時間未満である労働者は対象外である一方で、労災保険にはこのような制限もありません。
つまり、雇用保険の加入が不要であっても、労災保険への加入は必要である従業員もいるということです。
雇用保険と労災保険とは制度趣旨も保険料の負担者なども異なるため、混同しないよう整理しておいてください。
アルバイトや試用期間中も雇用保険の加入義務がある
先ほど解説したように、常時使用する従業員が101人(2024年10月以降は、51人)未満の事業者である場合、パートやアルバイトは原則として社会保険の加入対象外です。
これと混同し、「従業員101人未満なら、社会保険にも雇用保険にも入らせる必要はない」との誤解が散見されます。
繰り返しですが、正社員を雇用保険に加入させるべきであることはもちろん、次の要件を満たす限り、パートやアルバイトスタッフも雇用保険に加入させなければなりません。
- 1週間の所定労働時間が20 時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
これには、その事業主が常時雇用する従業員数も関係がないことには注意が必要です。
たとえ、自身のほかはアルバイトスタッフを1人雇っているだけの事業所であっても、そのアルバイトの1週間あたりの所定労働時間が20 時間以上であれば、雇用保険に加入させなければなりません。
また、試用期間中のスタッフであっても同様です。
「うちは、従業員数が少ないから雇用保険は関係ない」「うちはアルバイトしかいないから雇用保険は関係ない」という考えはいずれも誤解であるため注意しましょう。
加入義務があるにもかかわらず、これまで加入手続きをしていなかった事業者様は早急に社労士へご相談ください。
まとめ
社会保険と雇用保険の主な違いと、それぞれの概要について解説しました。
「社会保険」は広義で用いられる場合と狭義で用いられる場合があり、広義の社会保険には雇用保険も含まれます。
一方、狭義の社会保険は「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」を指し、雇用保険は労災保険とともに「労働保険」と呼ばれます。
(狭義の)社会保険と雇用保険では制度趣旨や保障の内容が異なるほか、加入要件も異なります。
社会保険への加入が不要であっても雇用保険の加入が必要な場合などもあるため、混同しないよう整理しておきましょう。
雇用保険と労災保険も加入要件が異なるため、社会保険の加入要否を検討する際は、(狭義の)社会保険と雇用保険、労災保険とで、分けて判断しなければなりません。
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