小林製薬が販売していた紅麴関連製品を巡る健康被害問題。
先日、外部弁護士による調査報告書が公表されました。
今回は、その調査報告書を読んで感じたこと、他社に共通すると思われる課題などを取り上げてみたいと思います。
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1.
はじめに~調査報告書を読むということ~
中身に入る前に、調査報告書を読むということについて少しだけお話ししてみたいと思います。
社内で危機対応に関わる業務に携わっている方においては、他社の調査報告書を読むと有益な情報を得られることがあると思っています。
よく考えてみると、他社で起きた不祥事について、事実関係、不祥事発生の原因、再発防止策などを詳しく見ることができるなんて、なかなか得られない機会だと思いませんか?
業種が全く異なり、起きた不祥事も、自社では起き得ない内容だと思われるケースでも、不祥事発生の原因を深掘りしていったとき、自社にも、不祥事の起きた他社と共通する土壌があることに気づくことも。
他社で起きた不祥事を自分事としてとらえ、自社の不祥事予防に利用する。
そのような観点で調査報告書を読んでみることをお勧めします。
2.
調査報告書で書かれていること
調査報告書を読むにあたって、最初に確認したいのが、「当該調査報告書は何を調査するものなのか」ということです。
つまり、「会社から具体的に委嘱された調査対象を明確にする」ということ。
このたびの調査報告書を作成したのは、事実検証委員会です。
そして、小林製薬の取締役会が事実検証委員会に委嘱したのは、
- 症例報告後の事実経過の調査
- 小林製薬の内部統制システム及び品質管理体制の精査
です。
ですから、この調査報告書には、今後小林製薬が再発防止のためにとるべき方策については記載されていない、ということになります。
委嘱事項のうち①については、症例報告後、どのような情報がどこに報告され、どのような対応がされたのか、などという事実認定がされています。
そして②については、委嘱の趣旨に鑑み、全般にわたる内部統制システム等の精査ではなく、症例報告後の事実経過の調査に深く関わる有事における内部統制システム及び品質管理体制の精査を行うものとして、ポイントを絞って検討されているようです。
次項では、この②の点に絞ってお話しします。
3.
内部統制システム等の問題点について
調査報告書では、小林製薬における内部統制システム等の問題点として、
- 危機管理本部の不設置や社外役員への情報共有の不備に見られるように、危機管理意識が不十分であったこと
- 健康被害発生時における対外対応ルール、解釈が混乱していたこと
- 情報共有体制の整備、運用が不十分だったこと
- 信頼性保証本部が最適な行動をとれなかったこと
- 品質管理体制が現場任せになっていたこと
が指摘されています。
私が外部から知り得るのは、あくまでも調査報告書に記載されている事項のみなので、詳細は認識していないという前提ではありますが、それでも、①に関して認定された事実経過を踏まえて考えると、おそらくここに指摘されている事項はそのとおりなのだと思います。
ただ、1つ気になるのは、「では、内部統制システム等にこのような欠陥があったのだとしたら、その根本的な原因はどこにあったのか」ということです。
調査報告書を読んだ限りでは、その答えになるようなことを読み取ることはできませんでした。
調査報告書を読んで少しだけ違和感をもったのは、この点でした。
調査報告書が公表された後ですが、小林製薬で新しく代表取締役に就任した元専務取締役が、その会見で「創業家中心の同族会社で、良いときは一枚岩で強く回るが、回り方が逆になると負になってしまう」と述べ、今後は創業家とは適切な距離を置いて経営を行っていくという考えを示していました。
この発言を聴き、調査報告書を読んで感じたちょっとした違和感の正体がわかった気がしました。
それは、調査報告書の内部統制システム等に対する指摘事項の中に、小林製薬が創業家中心の同族会社であるということが何らかの影響を与えていた可能性についての記載がなかったこと。
創業家中心の同族会社としての企業風土が、調査報告書における内部統制システム等の指摘事項の根本に潜んでいたという可能性はないのか、という検討は、この健康被害問題を巡る対応を事後検証し、再発防止策を講じるにあたって避けられない要素になるのだと思っています。
4.
この他社事例から何を学ぶか
自社にとって活かすべき要素は、業種、会社の規模、直面している課題等によってそれぞれで、共通するひとつというものをピックアップすることは難しいと思っています。
ただ、いろいろな会社の調査報告書を読んでいて特に共通する事項としてあげたい点が2つあります。
1つ目は、「成果物の最終チェック等の品質管理を担う部署によるけん制機能が不十分である」ということがしばしば起きること。
事業を推進していくにあたって、ときにブレーキになり得る部署が、納期まで余裕がない中でチェックを強いられたり、その意見が尊重されなかったり、また、その部署自体が自らの職責の重さを認識できていなかったりということが不祥事発生の一因となってしまう事例があり、この点は、ぜひとも自分事として見直す必要がある点だと思います。
2つ目は、社外役員がその役割をより十分に果たす必要があるということ。
社外役員は、社内にはびこる「これが普通だよね」という感覚にメスを入れるべき存在。
特に、社内で問題が発生した際、これをどのタイミングで公表するか、どのタイミングで製品の自主回収をすべきかなどという判断に際しては、目先の利益や保身ではなく、長期的に企業価値向上を目指す視点をもって意見を述べることのできる社外役員の存在意義は大きいものであるはずです。
前提として、社外役員に対する社内情報の共有が十分になされている必要がありますが、私自身の社外役員としての経験に照らしても、社内における情報共有に関するルール整備と併せ、社外役員自らがいかにして自ら情報をとりにいくかという主体性が非常に重要になると思っています。
この点、私自身も自分事として肝に銘じる必要があると考えています。
5.
こんなときはお声かけを
小林製薬における今回の事例は、健康被害という問題の大きさと併せて、起きた問題への対応の仕方に対し厳しい指摘がされているといえます。
問題が生じないよう予防することが最善であることはもちろんですが、何かが起きてしまったときに、いかに早い段階で、適切な対応をとり、企業価値の棄損を避けるかということが重要です。
会社で起きるのは、会社の事業に関する不祥事のみならず、従業員による私生活上における犯罪行為、各種ハラスメント等さまざま。
顧問弁護士がいらっしゃっても、その方は事業に関わる法規制に関しては豊富な知見を有しているものの、このような社内不祥事に関してはあまりご経験がないとしてご相談いただくことも多くあります。
弁護士には守秘義務があり、もちろん、ご相談いただいた内容に関して外に漏れることはありません。
御社で起きた問題に関し、事実の調査、証拠の評価、原因究明及び再発防止策の策定等一連の対応すべてをご依頼いただくことができます。
まずはお気軽にお声かけください。
記事監修者
高橋 麻理
(第二東京弁護士会)慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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