2024年5月15日、改正金融商品取引法が参院本会議で可決、成立しました。
本改正では、新興運用会社の参入を促すための規制緩和などを盛りこみ、資産運用立国の実現に向けて参入障壁の緩和や非上場株の流通促進など、法整備が必要な分野の環境を整えられました。
本記事では、改正金融商品取引法に伴って変更された内容について、弁護士がわかりやすく解説します。
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改正の概要
投資運用業者は顧客の資金で株や債券等への投資運用を行いますが、日本では新規の資産運用会社の参入が少ないのが現状でした。
経済を成長させる、国民の資産所得を増やしていくという観点から、投資運用業者の参入を促進しする必要に迫られていました。
そこで、今回の改正では投資運用業者の新規参入を促進するために、
- 「資産運用立国」の実現へ向けた投資運用業者の参入規制見直し
- スタートアップ育成へ向けた非上場株式等の流通をめぐる規制見直し
- 株式公開買付(TOB)・大量保有報告制度の見直し
がなされました。
「資産運用立国」の実現へ向けた投資運用業者の参入規制見直し
投資運用業者の参入規制見直しについては、次の2点が大きなポイントです。
- ミドル・バックオフィス業務を受託する事業者について任意登録制度のの創設と 投資運用業の登録要件緩和
- 運用(投資実行)権限の全部委託を可能に
従来、投資運用業の登録にあたっては、実際に運用する人材の確保に加えてコンプライアンスの遵守体制や経理といった、ミドル・バックオフィス業務の人材も確保する必要がありました。
本業の投資運用以外のこのような業務が大きな負担としてのしかかり、本業を圧迫している状態を鑑みて、今回の改正ではミドル・バックオフィス業務の委託に係る制度を整備。法令遵守や経理といったミドル・バックオフィス業務を受託する事業者の任意の登録制度が創設されました。
これによって、ミドル・バックオフィス業務を外注に出すことができ、投資運用業者は本業によりフォーカスできる環境が整いました。
投資運用業者が、ファンドの運営機能(企画・立案)に特化し、さまざまな運用業者に運用を委託できるよう、運用権限の全部委託を可能とする変更も大きなポイントです。
分業化が進む欧米では、運用の企画・立案をする業者がファンドの運営機能に特化し、運用を全部委託する形態が一般的でしたが、日本では認められていませんでした。
今回の改正で、ファンドの運営機能への特化が可能となり、より、企画や立案といったコアな業務に注力できるようになっています。
スタートアップ育成へ向けた非上場株式等の流通をめぐる規制見直し
現行法では、非上場株式の取引を行う場が存在せず、非上場株式保有者の換金ニーズや投資家の投資ニーズに応えられていないといった課題がありました。
そのため、日本では時価総額が小さいまま上場することも多いものの、この場合には機関投資家の投資対象にはならず、上場後の成長が停滞する原因となっていると指摘されていました。
そこで、今回の改正では非上場株式の仲介業務を行う事業者の参入を促進し、株主に売却・換金の機会を提供できるようになりました。
具体的には、
- 非上場有価証券の仲介業者の登録要件緩和
- 非上場有価証券の電子的な取引の仲介業務(PTS)の参入要件緩和
といった措置が取られています。
プロ投資家を対象に非上場有価証券の仲介業務に特化して、原則として有価証券や金銭の預託を受けない場合には、第一種金融商品取引業の登録要件等が緩和されました。
これによって、金融商品取引業者の新規参入が促進されることが期待されています。
また、非上場有価証券の電子的な取引の場を提供する場合、取引規模が限定的なときには、 PTS(私設取引システム)の認可を要せず、第一種金融商品取引業の登録により運営可能になりました。
株式公開買付(TOB)・大量保有報告制度の見直し
大量保有報告制度・公開買付制度にもテコ入れがなされました。
大量保有報告制度・公開買付制度とは、保有状況の開示や、公開買付を求めるものを指します。
- 大量保有報告制度
- 5%超の保有者となった場合(およびその後1%以上の変動があった場合)に保有状況を開示する義務
- 公開買付制度
- 3分の1ルール
3分の1超を取得するには 公開買付が必要 - 5%ルール
多数の者から5%超取得するには公開買付が必要
- 3分の1ルール
株主総会の特別決議には3分の2以上の賛成が必要となります。
3分の2以上の特別決議は、会社にとって重要な事項に関して決議になります。
たとえば事業を譲渡したいといったケースの場合、株主の3分の2以上の賛成が必要です。
ということは、3分の1を超えた株式を持っていれば、必ず株主総会の特別決議を否決できることになります。
ゆえに、会社の意思決定にとって、3分の1を超える株式というのは非常にインパクトが大きいわけです。そのために株式を3分の1を超えて購入するには、公開で買い付けを行うというルールがありました。
今回の改正では、3分の1、つまり33%を購入する際には公開買付が求められていたところ、その基準を33%から30%に引き下げられました。
非友好的買収事例の増加やM&Aの多様化といった環境変化を踏まえ、取引の透明性・公正性の向上を図る必要があると考えられたからです。取引の透明性・公正性の向上を図る観点から、規制対象取引が拡大されています。
改正の影響
今回の改正は、投資をやる一般国民への影響が主体で、企業に影響あるかと言われればあまりないかもしれません。
特に運用業者の参入に関しては、企業への影響はあまりないと思います。
あるとすれば、非上場株式の流通が活性化することで、M&Aを通じて会社を大きくしたい企業にとっては、仲介業者の取り扱いが増えることで、M&Aの選択肢が増えることは予想されます。
また、今回の改正で投資運用業者の参入障壁のハードルが下がりました。その結果、怪しげな投資運用業者が出てくる可能性もあります。
参入障壁には、怪しげな業者を排除する一定の機能があります。そのハードルが下がった結果、従来は登録できなかったような業者が登録できるようになることも考えられるので、投資を行っている方々は注意が必要かもしれません。
さまざまな投資運用業者が増えることで、利用者側の選択肢の幅も広がります。
自身に合った業者を適切に選べるように、注意深く業者の選定を行う必要が出てくるかもしれません。
記事監修者
伊藤 新
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。
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