社会保険料を正しく計算するには、社会保険料率を正しく確認しなければなりません。
では、社会保険料率はどのように確認すればよいのでしょうか?
また、社会保険料率は、どのようなタイミングで見直されるものなのでしょうか?
今回は、社会保険料率の概要や確認方法、改定のタイミングなどについて、社労士がくわしく解説します。
社会保険料とは
社会保険料とは、社会保険の保険料です。
社会保険は社会基盤の安定化を図るために設けられている、加入が義務付けられている保険制度です。
たとえば、老齢や疾病、障害などによって働けなくなった場合に何の保障も受けられなければ安心して生活することが難しいうえ、犯罪が多発するなど社会全体が混乱しかねません。
また、病気や怪我をしても医療費が全額自己負担であれば支払いができず受診を控える人が増え、公衆衛生上の問題が生じるおそれがあります。
そのような事態を避けるために設けられているのが社会保険制度です。
社会保険制度を支えるため、原則として20歳から60歳の日本国民は所定の社会保険料を納めなければなりません。
また、被保険者(従業員)の雇用主である会社も一定割合の負担が必要です。
(広義の)社会保険料には、次の5つが含まれます。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
なお、このうち雇用保料と労災保険料をまとめて「労働保険料」といいます。
これら以外の3つ(健康保険、介護保険、厚生年金保険)を(狭義の)社会保険料ということもあります。
健康保険料
健康保険料とは、健康保険制度を支えるための保険料です。
健康保険制度とは、病気や怪我によって生じる経済的な負担を支え合うことを目的にしている社会保障制度です。
病気や怪我で入院や通院をする際、病院の窓口で支払う診療報酬は、原則として医療費の3割です。
これは、残りの7割相当分が、協会けんぽなどの保険者から病院などに支払われているためです。
また、「高額療養費制度」も設けられており、たとえ高額な治療費がかかっても、一定以上の医療費は後から還付を受けられます。
このように、安心して医療を受けるための制度が健康保険です。※1
健康保険料は、従業員と会社が折半して負担します。
介護保険料
介護保険料とは、介護保険制度を支えるための保険料です。
40歳以上の従業員からは、40歳となった月から介護保険料を徴収しなければなりません。
介護保険とは、要介護認定または要支援認定を受けた者や、65歳以上の者が受ける介護サービスにかかる費用の一部を負担する制度です。
介護保険制度があるため、介護サービスを1割(または2割)負担で受けられます。※2
介護保険料は、40歳以上の従業員と会社が折半で負担します。
厚生年金保険料
厚生年金保険料とは、公的年金制度を支えるための保険料です。
年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の2階建てとなっており、会社の従業員は原則として国民年金に加えて厚生年金に加入します。
年金制度があることで、老齢になった際や病気などで障害が残った際などに、年金を受け取ることが可能となります。
厚生年金保険料は、従業員と会社が折半で負担します。
雇用保険料
雇用保険料とは、雇用保険制度を支える保険料です。
雇用保険制度とは、労働者が失業した際に失業保険を支給したり、労働者の能力開発のために教育訓練給付などを行ったりする制度です。
雇用保険制度があることで、失業した場合に突然収入が途絶える事態を避けやすくなります。
雇用保険料は、従業員と会社とが異なる料率で一定割合を負担します。
労災保険料
労災保険料とは、労災保険制度を支える保険料です。
労災保険制度とは、労働者の業務上または通勤途上の傷病など対して必要な保険給付などを行う制度です。
労災保険料に従業員の負担部分はなく、会社が全額を負担します。
社会保険料は誰がいつ納める?
社会保険料は、誰がいつ納めるのでしょうか?
ここでは、それぞれの社会保険料の負担者と負担時期について解説します。
社会保険料の負担者と負担割合
社会保険料の負担者と負担割合をまとめると、それぞれ次のとおりです。
社会保険料の種類 | 負担者と負担割合 |
健康保険料 | 従業員と会社が折半 |
介護保険料 | 従業員と会社が折半 |
厚生年金保険料 | 従業員と会社が折半 |
雇用保険料 | 業種によって異なる |
労災保険料 | 全額会社負担 |
なお、従業員と会社が折半する社会保険料について折半した結果に端数が生じる場合は、原則として従業員が負担する部分を次のように処理します。
- 50銭以上:切上げ
- 50銭未満:切捨て
そのうえで、計算結果から従業員負担額を控除した残りを会社が負担します。
そのため、従業員負担額と会社負担額とは必ずしも同じ金額とはならず、1円の差が生じる可能性があります。
社会保険料の納付時期
社会保険料の納付時期は、それぞれ次のとおりです。
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の納付時期は、対象月の翌月末日(休日の場合は翌営業日)です。
たとえば、8月25日に従業員へ給与を支払う場合、この給与から従業員負担分の社会保険料を天引きして会社が預かります。
預かった従業員負担分と会社負担分とを併せて、9月30日までに納付します。
雇用保険料、労災保険料
雇用保険料と労災保険料は、原則として1年に1回、6月1日から7月10日(7月10日が休日の場合は翌営業日)までに支払います。
雇用保険は従業員負担部分があるため、これは給与などから天引きして会社が保管します。
そのうえで、毎年1回の支払時期に、会社負担分と併せて納付します。
なお、雇用保険料と労災保険料は1年分を概算で前払いするため、概算での納付額と実際に必要な保険料が異なることが少なくありません。
この場合は、翌年度の概算納付時期に過不足額を精算します。
社会保険料の計算の概要
社会保険料の計算は、次の2段階で行います。
- ステップ1:標準報酬月額を計算する
- ステップ2:標準報酬月額に社会保険料率を乗じる
ステップ1:標準報酬月額を計算する
はじめに、計算のもととなる「標準報酬月額」を算定します。
標準報酬月額とは、被保険者が受け取る給与総額を一定幅で区分した報酬月額にあてはめて決定した標準報酬です。
原則として毎年7月の定時決定の時期に標準報酬月額を改定し、これをその年9月から翌年8月の社会保険料計算に使用します。
定時決定の場合は、4月、5月、6月の3か月分の給与総額の平均額を基礎として標準報酬月額を算定します。
なお、賞与にも社会保険料がかかりますが、この場合は標準報酬月額ではなく「標準賞与額」がベースとなります。
標準賞与額とは、支給する賞与総額のうち1,000円未満を切り捨てた額です。
ただし、一定の上限額が設けられています。
ステップ2:標準報酬月額に社会保険料率を乗じる
計算した標準報酬月額(または標準賞与額)に各社会保険の料率を乗じて社会保険料を算定します。
なお、雇用保険と労災保険は標準報酬月額や標準賞与額を用いず、実際の支給総額が計算の基礎となります。
社会保険料率の確認方法
各社会保険料の料率は、どのように確認すればよいのでしょうか?
ここでは、社会保険料率の確認方法を解説します。
健康保険料率
健康保険料率は、加入している健康保険の保険者と事業所のある都道府県によって異なります。
もっともメジャーな健康保険の保険者は「協会けんぽ」です。
この場合は、インターネット上で「協会けんぽ 保険料率」などと検索すると都道府県ごとの料率表が掲載されたページが表示されるため、ここから事業所のある都道府県分の料率を確認します。
たとえば、東京都に事業所がある場合の2024年度における料率表は次のとおりです。※3
ここから、2024年度における健康保険の料率が9.98%(従業員負担分と、会社負担分との合計)であることがわかります。
ただし、これはあくまでも協会けんぽに加入しており、東京都に事業所がある場合に適用される料率です。
その企業独自の健康保険組合や業界団体独自の健康保険組合など協会けんぽ以外が保険者である場合は料率が異なります。
そのため、その保険者のホームページを確認するか、保険者に問い合わせることで確認するとよいでしょう。
介護保険料率
健康保険の料率と同じく、介護保険料率も加入している健康保険の保険者のホームページなどから確認できます。
先ほどの表に、「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の保険料率として「11.58%」との記載があります。
これが、2024年度における健康保険料率と介護保険料率を合算した料率です。
差し引いて計算すると、介護保険料率は1.6%(=11.58%-9.98%)であることがわかります。
厚生年金保険料率
2024年現在、厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。
これは、日本年金機構のホームページから確認できます。※4
年金制度改正に基づいて厚生年金保険料率は段階的に引き上げられていたものの、2017年9月を最後に引上げが終了しており、固定されるに至っています。
雇用保険料率
雇用保険料率は、業種によって異なります。
雇用保険料の料率は厚生労働省のホームページから確認でき、2024年度はそれぞれ次のとおりです。※5
事業の種類 | 労働者負担 | 事業主負担 |
一般の事業 | 1,000分の6 | 1,000分の9.5 |
農林水産・清酒製造の事業 | 1,000分の7 | 1,000分の10.5 |
建設の事業 | 1,000分の7 | 1,000分の11.5 |
社会保険料率が見直される時期は?
社会保険料率は、どのタイミングで見直されるのでしょうか?
ここでは、社会保険料の料率が見直されるタイミングを解説します。
健康保険と介護保険
健康保険と介護保険の料率は、原則として毎年3月分(4月納付分)から見直されます。
見直しの時期には、新しい料率を適用することを忘れないよう注意が必要です。
厚生年金保険
厚生年金保険料率の改定時期は、原則として9月です。
ただし、先ほど解説したように、2017年9月以降は18.3%で固定されています。
社会保険料率に関する注意点
最後に、社会保険料率にまつわる注意点を3つ紹介します。
健康保険組合加入の場合、協会けんぽとは異なる社会保険料率が適用される
先ほど解説したように、健康保険の料率は加入している組合によって異なります。
多くのホームページでは加入者数の多い「協会けんぽ」が前提とされています。
しかし、加入している組合によっては料率が異なることがあるため注意が必要です。
ソフトの場合は手動修正が必要な場合がある
社会保険料の計算は、ソフトを使って行うことが多いでしょう。
しかし、ソフトを使う場合であっても、計算結果が正しいことを定期的に確認することをおすすめします。
特に、料率の改定時期には改定後の料率が正しく反映されていることを確認しておくべきでしょう。
ソフトの種類や設定などによっては改定後の料率が正しく反映されず、計算誤りにつながるおそれがあるためです。
社会保険料は賞与からも差し引く必要がある
社会保険料は給与から差し引くのみならず、賞与からも差し引かなければなりません。
給与にかかる社会保険料と賞与に係る社会保険料の料率は同じです。
以前は賞与にかかる社会保険料は非常に低く設定されていたものの、2024年現在では給与と賞与とで料率は異なりません。
誤解のないようご注意ください。
なお、会社負担分があることも、給与にかかる社会保険料と同様です。
まとめ
社会保険料の概要や料率の調べ方などについてくわしく解説しました。
社会保険の中でも、健康保険料は加入している保険者(協会けんぽか、業界団体の組合かなど)によって料率が異なります。
事業所がある都道府県によっても料率が異なることがあるため、正しい料率を確認するようご注意ください。
また、ソフトを使って計算する場合であっても、正しい料率が反映されていることを適宜確認することをおすすめします。
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