公開 2024.05.21Legal Trend

2024年4月施行 不正競争防止法改正のポイントについて弁理士がわかりやすく解説

競争法

2023年6月14日に「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が交付されました。
本改正はベンチャー、スタートアップから大企業まで、多くの企業にとって重要なものとなっています。

本稿では、コンセント制度の導入、デジタル空間における模倣行為の防止など5つのポイントに絞ってわかりやすく解説します。

目次
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コンセント制度の導入

令和5年6月14日に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」により、コンセント制度が導入されることとなりました。
コンセント制度に係る改正商標法の規定は、2024年4月1日から施行されました。

商標の登録に際しては大きく2つの要件があります。

  • 他人の権利に抵触しないこと
  • 商標自体に識別力があること

今回の改正で、他人の権利と抵触しないことの部分において、商標や商品が類似していたら特許庁から抵触していると指摘され拒絶されていた点について、先行登録商標権者の同意書(コンセント)があれば後行の商標の併存登録ができる制度になりました。

コンセント制度は、海外では広く導入されていました。
英米はもちろん、中国や韓国といったアジア圏でも運用されており、世界的にもよくある制度です。
日本では1996年の商標法改正の議論の際に導入が検討されましたが、先送りにされていたのが今回の改正でようやく導入された経緯があります。

同意書をもらうに際して、双方でどのような商標態様を使う、どのような商品・役務に使う、混同を防止するためにこのような表示をするといった細かい内容をすり合わせます。
世界で通用する商標にしようとすると、世界中でなにかしらの商標に引っかかるでしょう。
世界では、当事者が相互にコンセントの諸条件を定めた商標共存契約書を交わしながら、商標の住み分けを図っていくというのが世界の常識でした。

コンセント制度が存在しなかった日本では、これまで、アサインバックという方法でコンセント制度の代用としてきました。
これは、相手の出願をいったん商標権者に譲渡してもらって商標登録し、権利化後に権利を返還するという方式で対応していましたが、国際標準に近いコンセント制度で置き換えていくことになります。
コンセント制度の導入は、国が商標の権利範囲を決めるということから、権利者同士が権利範囲を決めるということへの変換であり、非常に大きな考え方の変化であり重要なポイントであるといえるでしょう。

コンセント制度の導入にあたって、日本企業は意識改革が求められます。
これまで企業の担当者は、商品やサービスの名前を考えたら商標調査をし、商標登録さえ取得できれば、国が認めてくれた商標権であり、未来永劫にわたって強い権利として持てるという感覚があったかもしれません。
今後は登録しただけではなく、実際にその商標を使用していなければならないし、コンセントの依頼がくればある程度は応じる必要も出てくるでしょう。
コンセントは出してあげなければもらうこともできにくくなります。この持ちつ持たれつの相互関係を理解し、コンセントを発行する、コンセントを受けることについて慣れていかなければなりません。

日本では、これまでも許諾・非許諾やアサインバックといったコンセント制度に変わる独自の制度を運用してきたものが、正式にコンセント制度に置き換わります。
企業の担当者は、自身の権利は国が守ってくれるのではなく、自身が契約で守るといった感覚を身に着けていくことが求められるでしょう。

正式にコンセント制度が導入されたことを受けて、企業はどのような対応が求められるのでしょうか?
まずは商品・役務リストを作り、自社ではどのような商品を製造販売しており、どのような役務をサービス提供しているのか、どの国で事業をしているのかも含めてリストアップしましょう。
その際には、将来どのような事業を展開していきたいのかの予測も大切です。
使用証拠の保管も重要なポイントです。
使用証拠はカタログや写真だけでは不十分です。
必要に応じて取引書類やインボイスの提出が求められます。海外とのやり取りにおいて、インボイスは非常に重要な証拠になります。

Authense弁理士法人は、3年連続日本一の商標出願件数を代理しています。
これまでも、多くのアサインバック等の対応をしてきました。
今後は、同意書や共存契約書の締結交渉にも積極的に取り組む予定です。

他人の氏名を含む商標に係る登録拒絶要件の見直し

2023年6月14日に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」により、他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます。改正商標法第4条第1項第8号の規定については、施行日(2024年4月1日)以後にした出願について適用されています。

改正前の商標法では、他人の氏名を含んだ商標は当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることができないと規定しており(商標法第4条第1項第8号)、その氏名の知名度にかかわらず、「他人の氏名」を含む商標は、特許庁が同姓同名の他人と認定した全員の承諾が得られなければ商標登録を受けることができませんでした。

改正の背景にはファッションデザイナーなど、個人の名前でビジネスを行っているクリエイターからの要望がありました。
自身の名前を商品名に使用し、ビジネス展開していく際、商標登録しようとするなら日本全国の同姓同名の人々の許諾が必要でした。
しかも、そのうちの一人が拒絶したら、商標登録が認められないという苦しい状況がありました。
そのため要件を緩和されたのが今回の改正です。

  • 氏名に一定の知名度を有する他人が存在しない場合で、
  • 氏名が出願人の自己の氏名、創業者や代表者の氏名、出願前から継続的に使用している店名等であり、
  • 出願が、他人への嫌がらせの目的や先取りして商標を買い取らせる目的(不正の目的)でされたものではない、

上記のケースを満たすことを条件に、商標登録できるようになりました。

芸能人、スポーツ選手、デザイナーなど、氏名が大きな経済価値を持つ時代です。
これまでは、商標登録できないことが多かったのですが、これからは、商標登録できることが多くなります。
そのため、積極的な商標出願が必要になりそうです。

意匠の新規性喪失の例外手続きの緩和

2023年6月14日に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」により、意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続が緩和されました。

原則として、出願前に公開された発明や意匠は、新規性が無く、特許や意匠登録が認められません。これを新規性の要件といい、特許や意匠では、最も重要な要件です。
しかし、ビジネスにおいてまずマーケットリサーチし、反応が良ければ本格的に販売すると同時に、意匠も出願するといったケースは珍しくありません。
このようなケースのために、一定期間であれば新規制喪失の例外の適用が認められるルールは以前から存在しました。

だたし、従来は、例外の適用を認めてもらうためには、一つひとつの公開について新規制喪失の例外の手続きが必要でした。
インターネットの発展に伴い、自社ホームページやSNSで公開したものが拡散された場合、一つひとつの公開について新規制喪失の例外の手続きが求められていました。
この要件を緩和し、最先の公開日に公開した意匠の証明書を提出すれば、その日以降の同一または類似の意匠の公開についての証明は不要となりました。

デジタル空間における模倣行為の防止

今回の法改正に伴って、デジタル空間における模倣行為(いわゆるデッドコピー)が禁止されました。
従来の法律では、現実世界での商品の模倣を想定しており、他人の商品形態を模倣した「パクリ品」の提供行為を不正競争防止法で規制していました。
しかし、昨今のインターネットの発展に伴い、メタバースなどのデジタル空間で現実世界の商品のデザインなどを模倣するケースが後を絶ちませんでした。

そこで、現実世界に商品があるものをベースにしてデジタル空間に存在する似ているデザインを差し押さえできるように法改正がなされました。
リアル対リアルだけの規制だったものが、法改正後はリアル対デジタル、デジタル対デジタル、デジタル対リアルへの規制が追加されています。

特許出願非公開制度

軍事目的の出願をする際には、まず日本に対して出願を行い、日本の内閣府の許可を得てからでなければ外国出願できなくなるよう、法改正が行われました。

背景には国際情勢の複雑化や安全保障の確保が挙げられます。
通常、特許は公開の代償としての独占権とされており、発明は公開されるのが原則です。
しかし、軍事目的に使われる特許まで無制限に公開してしまっては、国家の安全保障が脅かされてしまいます。
そこで、軍事関連の特許については非公開にできるように改正されました。

まとめ

今回の改正は多岐にわたり、一企業の担当者ですべてを対応するのは難しいかもしれません。
自社のビジネスにおいて悩んだり、今回の法改正への対応にお悩みの際は、専門家に早めに相談されることをおすすめします。
Authense弁理士法人は、企業からのご相談を随時受け付けております。
グループ内弁護士、税理士、社労士との連携により、法律・税務・労務など企業価値向上に向けて全方位でのサポートをご提供します。

記事監修者

Authense弁理士法人
弁理士

西野 吉徳

学生時代に弁理士試験に合格。大手電機メーカーに勤務し、知財部門において商標・意匠・契約などを担当したのち、コミュニケーション部門のブランドマネジメントに異動。 2017年、特許事務所に転職し、外国商標業務を担当。2022年、はつな弁理士法人へ入所。 特許事務所での商標権利取得経験、企業の知財部門及びコミュニケーション部門での経験から、商標権利取得、企業内商標管理及びブランディングという3つの分野に精通。総合力を生かして、クライアントのブランド構築を強力にサポートします。

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