公開 2024.03.06BusinessTopics

工事請負契約書とは?書き方と作成の注意点を弁護士がわかりやすく解説

契約書

工事を受発注する際には、工事請負契約書を取り交わすことが基本です。

工事請負契約書は、どのように作成すればよいのでしょうか。
また、作成する際はどのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、工事請負契約書の作成方法や注意点、印紙税の対象となるかどうかなどについて、弁護士が詳しく解説します。

目次
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工事請負契約書とは?目的は?

工事請負契約書とは、工事を受発注する際に取り交わす契約書です。
発注者と元請企業となる建設会社との間で取り交わすほか、元請会社と下請会社など建設会社同士で取り交わすことも少なくありません。

工事が元請企業1社のみで完了することは稀であり、複数階層による下請がなされることが一般的です。

工事請負契約は請負契約の1つであり、請負契約について民法では「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」(民法632条)と定めています。

請負契約と委任契約はよく比較されますが、請負契約は「仕事の完成」が目的となることが特徴です。
つまり、単に工事現場に出向いて現場の業務をその都度手伝ういわゆる「人工出し」は請負契約ではない一方で、「この建屋の内装工事を完成させる」など完成を約すものが請負契約に該当します。

工事の請負契約においては契約書の作成が義務であり、書面または電磁的記録において契約書を締結しなければなりません(建設業法19条1項、同条3項)。

工事請負契約書の作成方法

工事請負契約書は、どのような手順で作成すればよいのでしょうか?
ここでは、一般的な作成方法について解説します。

  • 請負契約に関する大枠の取り決めをする
  • 工事請負契約書の契約書案を作成する
  • 契約書案をもとに詳細な条件交渉をする
  • 最終的な契約書に署名押印をする

請負契約に関する大枠の取り決めをする

はじめに、発注者と受注者の間で、工事請負に関する大枠の事項を取り決めます。
ここで最低限取り決めておくべきことは次の4点です。

  • 発注する工事の内容
  • 工事期間
  • 対価の額
  • 前金や出来高払いの有無とその金額

これらの事項を取り決めておかないと、契約書案の作成が難しいためです。

工事請負契約書の契約書案を作成する

大枠で取り決めた事項をもとに、工事請負契約書の契約書案を作成します。
契約書案
なお、国土交通省のホームページでも工事請負契約書の標準約款が公開されているため、こちらを元に作成することも1つの方法です。

契約書案をもとに詳細な条件交渉をする

契約書案をもとに、詳細な条件交渉をします。

なお、建設業法において「建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない」との規定(同法18条)や、「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない」などの規定があります(同法19条の3)。

そのため、自社より立場の弱い下請企業に対して無理な対価で工事を発注するような行為は避けましょう。
工事請負契約については建設業法に多くの定めが置かれているため、一読しておくとよいでしょう。

最終的な契約書に署名押印をする

契約書案の内容に双方が合意をしたら、最終形となった工事請負契約書に署名または記名押印をします。
契約書は2通作成し、当事者双方が相互に交付します(同法19条)。

工事請負契約書作成時の注意点

工事請負契約書の作成時は、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
ここでは、工事請負契約書作成時の主な注意点について解説します。

  • 工事の内容に追加や変更があった場合の対応を明記する
  • 工事が延長した場合の対応について明記する
  • 工事中に発生した損害の負担割合を明記する
  • 近隣への説明やクレームに対する役割分担を明記する
  • 地中障害物などが発覚した際の対応について明記する

工事の内容に追加や変更があった場合の対応を明記する

工事請負契約において、工事が開始した後で工事内容に変更や追加が生じることは、珍しいことではないでしょう。
そのため、工事請負契約書では、工事の内容に追加や変更があった場合の対応を明記しておくようにしてください。

ただし、契約書締結時には変更や追加の内容がわからない以上、具体的な金額を記載することは困難です。
そのため、工事請負契約書では「必要があると認めるときに発注者が工事を追加したり変更したりできる」旨を定めるととともに、「工事の追加や変更があったときに、発注者や受注者が請負代金額の変更を求めることができる」旨の規定を入れることが一般的です。

工事が延長した場合の対応について明記する

受注者が請け負った工事をあらかじめ取り決めた工期内に完了することができない場合、発注者が損害を被る恐れがあります。
たとえば、発注者自身も別の企業(元請企業)や注文者から工事を請け負っている場合は、工事の遅延によって発注者が元請企業や注文者から損害賠償がなされる可能性があるでしょう。

予定していた工期内に工事が完了しない場合は、発注者から受注者に対して損害賠償請求をできる旨を定めることが一般的です。

ただし、工事が遅延した原因が天災やテロなどの不可抗力である場合にまで受注者に遅延の責任を負わせることは酷となります。
そのため、工事の遅延が社会通念に照らして受注者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償請求をしないこととするのが一般的です。

また、建設業法では「注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない」との規定があります(同法19条の5)。
そもそも発注者が無理な工期を強いたことで期限内に工事が完了できなかった場合は、損害賠償請求ができなかったり減額されたりする可能性があります。

工事中に発生した損害の負担割合を明記する

工事の施工において、損害が発生するケースもあります。
これに備え、工事請負契約書ではその損害の負担割合や損害への対応などについて、ケースごとに定めておきましょう。

近隣への説明やクレームに対する役割分担を明記する

工事を施工する中で、近隣住民から苦情が入ることがあります。
また、特に騒音が生じる工事を行う際に近隣に説明が必要となる場合もあるでしょう。
工事請負契約書では、近隣への説明やクレームに対する役割分担を明記することをおすすめします。

これについては、近隣からのクレームや第三者への損害は工事の受注者が対応することを原則としたうえで、受注者が十分に注意を払ってもその損害やクレームの発生が避けられないものである場合は、発注者側で対応すべきとすることが一般的です。

また、クレームの態様によっては、これが原因で工事が遅延することもあります。
その場合に備え、クレームによって工事が遅延した場合の対応についても定めておくとよいでしょう。
これについては、クレームの原因が受注者に責任を問うべきものであるのか、受注者が十分な注意を払っても回避が難しいものであるのかによって対応を分けることが一般的です。

地中障害物などが発覚した際の対応について明記する

工事を行う中で、不測の事態が生じることがあります。
不測の事態として代表的なものは、地中から障害物が出てくることなどでしょう。
地中障害物の撤去は、その規模や内容にもよるものの、多額の費用を要することが珍しくありません。
そのため、これは建設会社が負担するのではなく、大元の発注者が負担することが原則です。
これについては、万が一地中障害物が生じた際は発注者に直ちに報告するとしたうえで、改めて追加費用について見積もりをする旨などを定めることが多いでしょう。

工事請負契約書に印紙税の貼付は必要?

工事請負契約書に、収入印紙の貼付は必要なのでしょうか?
最後に、印紙税について解説します。

工事請負契約書は印紙税の課税対象

印紙税は、印紙税法で定められている一定の文書についてのみ課税されます。
工事請負契約書は「請負に関する契約書」に該当し、印紙税の課税対象です。
そのため、契約書には税額分の収入印紙を貼付し、消印をしなければなりません。

貼付すべき印紙税額

工事請負契約書に貼付すべき印紙税額は、契約書に記載された契約金額に応じてそれぞれ次のとおりです。
請負に関する契約書のうち、建設工事の請負に係る契約に基づき作成されるもので2024年3月31日までの間に作成されるものについては、軽減税率が適用されています。

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記載された契約金額 税額 軽減後の税額
1万円未満のもの 非課税 非課税
1万円以上 100万円以下のもの 200円 200円
100万円を超え 200万円以下のもの 400円 200円
200万円を超え 300万円以下のもの 1,000円 500円
300万円を超え 500万円以下のもの 2,000円 1,000円
500万円を超え 1,000万円以下のもの 1万円 5,000円
1,000万円を超え 5,000万円以下のもの 2万円 1万円
5,000万円を超え 1億円以下のもの 6万円 3万円
1億円を超え 5億円以下のもの 10万円 6万円
5億円を超え 10億円以下のもの 20万円 16万円
10億円を超え 50億円以下のもの 40万円 32万円
50億円を超えるもの 60万円 48万円
契約金額の記載のないもの 200円 200円

工事請負契約書を作成する際は、収入印紙の貼付を忘れないよう注意が必要です。
収入印紙を貼らないと、本来納付すべきであった印紙税の3倍に相当する過怠税の対象となります。

もっとも、電子契約にて契約を締結した場合には、印紙代は不要となります。
建設業法上、電子契約を利用することについて、取引相手の同意が必要になりますが、当事者双方にメリットがあるため、DX化を進めるにあたって電子契約の導入を検討するのも良いでしょう。

まとめ

工事請負契約書とは、工事の受発注をする際に取り交わす契約書です。
建設業法において請負契約の締結にあたっては契約書を取り交わすべき旨が規定されており、書面や電磁的記録によって契約書を作成して相互に交付しなければなりません。

工事の請負契約は「請負契約」の一種であり、基本的な事項は民法に定められています。
そのうえで、工事請負契約については建設業法によっても詳細な規定がされているため、契約書作成時はあらかじめ建設業法を一読することをおすすめします。

工事請負契約書の雛形は、国土交通省のホームページでも公表されています。
ただし、雛形はあくまでも一般的なケースを前提としたものであり、個々の事情を反映したものではありません。
個別事情に即した工事請負契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所までご相談ください。

記事執筆者

Authense法律事務所
弁護士

櫛田 翔

(大阪弁護士会)

立命館大学法学部法学科卒業、神戸大学法科大学院修了。不動産法務(建物明け渡し請求、立ち退き請求など)を中心に、交渉や出廷など、数多くの訴訟を経験。刑事事件では、被疑者の身体拘束からの早期釈放や不起訴を獲得するため、迅速な対応を心掛けるとともに、被害者側の支援活動にも積極的に取り組む。

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