公開 2024.01.12BusinessTopics

パワハラ防止法とは?概要や罰則を弁護士がわかりやすく解説

パワハラ

職場のハラスメント対策の強化を柱とした「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が2019年5月29日の参院本会議で可決、同法が成立しました。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)や妊娠・出産した女性へのマタニティーハラスメント(マタハラ)はすでに企業に防止措置を講じる義務がありましたが、パワハラについては規定がなく、対策は企業の自主努力に委ねられていました。

今回は、改正法により何が規定されたのか、弁護士が詳しく解説します。

目次
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パワハラ対策を義務付ける改正法の成立と施行

職場のハラスメント対策の強化を柱とした「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称「パワハラ防止法」)」が2019年5月29日の参院本会議で可決、同法が成立しました。
その後この改正法は2020年6月から施行されており、さらに2022年4月からは中小企業を含むすべての企業が適用対象となっています。

この法律によりはじめてパワハラが定義され、企業に防止措置が義務付けられることとなりました。

「セクハラ」「マタハラ」「パワハラ」「モラハラ」「カラハラ」「ブラハラ」など、世間でも用語として使用されているハラスメントはたくさんありますが、法律上企業に防止措置を講じることが義務付けられていたものは、これまでセクハラ(セクシュアルハラスメント)・マタハラ(マタニティーハラスメント)だけで、パワハラ(パワーハラスメント)については規定がなく対策は企業の自主努力に委ねられていました。

パワハラ防止法が成立し施行されたことにより、パワハラについても明確に定義され、企業に防止措置が義務づけられることとなりました。

パワハラ防止法における「パワハラ」とは(パワハラの定義)

パワハラは、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」で規律され定義がなされています。

同法において、パワハラは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者から の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定されており、従前「職場のパワーハラスメント防止対策に関する検討会報告書」において、

  • 優越的な地位を背景
  • 業務の適正な範囲を超えた行為
  • 身体的・精神的な苦痛を与えること または 就業環境を害すること

と規定されたところと同様の内容です。

ここにいう「優越的な地位」は、優位性を背景に基づいていればよく、必ずしも職務上、上位の地位にある者から下位の者への行為に限られません。

たとえば、部下であっても業務上必要な知識を有しておりこの者の協力が得られなければ業務に支障がある場合や、部下からの集団による行為で抵抗することが困難である場合も該当します。

また、パワハラというためには「業務の適正な範囲を超えた」行為であることが必要です。
したがって、業務上必要があり、その程度が社会通念に照らし相当であればパワハラではありません。

たとえば、遅刻など社会的ルールを欠いた行動に対し注意をしても問題にはなりません。
条文上明記はされていませんが、職場のパワーハラスメントの典型的な例としては、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」において「職場のパワーハラスメントに当たりうる行為」として挙げられた6つの行為類型が挙げられます。

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

各類型の例としては、次のものが挙げられます。

  1. 上司から「出来が悪い」と言われ、灰皿を投げつけられた
  2. 大勢の前で、上司から、「ばか」「のろま」などの言葉を毎日のように浴びせられる
  3. 職場の全員が呼ばれている忘年会や送別会にわざと呼ばれない、話しかけても無視される
  4. 能力や経験を超える無理な指示で他の社員よりも著しく多い業務量を課したりする
  5. 営業職として採用された社員に営業としての仕事を与えずに草むしりばかりさせる
  6. 業務上必要がないのに、プライベートを詮索する

これらの類型に形式的に該当したとしても、すべてが違法性を有するわけではなく、裁判例は下記を判断にあたって考慮しています(平成29年10月第5回職場におけるパワーハラスメント防止対策についての検討会 資料3)。

  • 指導監督・業務命令を逸脱した行為の有無
  • 行為者の動機・目的・受け手との関係
  • 受け手の属性
  • 行為の継続性回数、加害者の数等
  • 受け手が身体的、精神的に抑圧された程度
  • 人格権侵害の程度

実際のパワハラの事例

パワハラをした人だけでなく、会社の責任が認められた裁判例には次のものなどが存在します。

同僚間の暴行について使用者に損害賠償責任を認めると共に、同暴行に起因する欠勤中の解雇を無効とした例

業務の分担を巡るやり取りにおいて、加害社員X(男性)が同じ課の同僚であるY(女性)を殴打し、顔面挫創や頸椎捻挫の傷害を負わせた事案です。

Yはその後頸部・腰部痛や手足のしびれなどが続いて約2年半休業していましたが、この間に解雇をされています。

この事案では解雇が無効にされるとともに、加害社員Xと会社が連帯して60万円の損害賠償を負うこととされました。
会社が責任を負うと判断された理由は、業務指示の在り方という業務に起因したものであるから、Xによる暴行は会社の業務執行につき加えられたものであると認定されたためです。

バスの運転士に対して1か月にわたって除草作業を命じたことが「いじめ」にあたると判断された事案

路線バスを駐車車両に接触させる事故を起こしたバスの運転士Xに対し、営業所所長であるYが下車勤務を命じました。このこと自体に違法性はありません。

しかし、その後期限も示さず、1か月に渡って「Xが病気になっても仕方がない」との認識のもとで終日または午前あるいは午後一杯炎天下である営業所構内の除草作業を命じた点は、人権侵害の程度が非常に大きく、Xに対する懲罰として行われたものに等しく、下車勤務の本来の目的から大きく逸脱したものでした。とされています。

この事案では、正当な理由なく過少な業務を命じたという点から、当該命令が違法な業務命令にあたると判断されました。

パワハラ、暴行等と自殺との間に相当因果関係有りとして高額の損害賠償が認められた事案

当時52歳であった従業員Xが、会社役員2名から日常的な暴行やパワーハラスメント、退職勧奨等を受けたことが原因で自殺したとして、その従業員の妻子が会社と会社役員2名に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行った事例です。

この事案では、次の行為について不法行為と認定され、会社と代表者に対し慰謝料などの合計5,400万円余りの損害賠償を命じています。

  • Xが仕事上のミスをした際「てめえ、何やってんだ」「どうしてくれるんだ」「ばかやろう」などと汚い言葉を大声で怒鳴ったり、頭を叩く、殴る、蹴ったりしたことが複数回あった
  • Xほか1名の従業員に対してミスによって被告会社に与えた損害を弁償するよう求め、弁償しないのであれば家族に払ってもらうと述べた
  • Xほか1名の従業員に対し「会社を辞めたければ7,000万円払え。払わないと辞めさせない」と述べた
  • Xの大腿部後面を2回蹴り、全治約12日間を要する両大腿部挫傷の傷害を負わせた
  • Xに対し退職願を書くよう強要し、「私(X)は会社に今までにたくさんの物を壊してしまい損害を与えてしまいました。会社に利益を上げるどころか、逆に余分な出費を重ねてしまい迷惑をお掛けした事を深く反省し、一族で誠意をもって返さいします。二ケ月以内に返さいします。」の下書きを作成させた。これには「額は一千万~一億」と鉛筆で書かれ、消された跡があった

企業に義務付けられる措置

パワハラ防止法では、パワハラを防止しその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主に対し一定の措置が義務付けられました。
パワハラ防止法に対応するために企業が行うべき主な措置は次のとおりです。

ここでは、厚生労働省が公表している資料「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」をベースとして解説します。

  • 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
  • 不利益取扱いの禁止

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

1つ目は、パワハラに関する事業主の方針の明確化とその周知・啓発です。
これには、次の2つが含まれるとされています。

  1. ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発
  2. 行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発

具体的には、次の取り組みなどが該当します。

  • 就業規則や社内報などに事業主の方針を規定し、その規定と併せてハラスメントの内容やハラスメントの発生の原因や背景等を労働者に周知・啓発すること
  • 職場におけるハラスメントの内容や発生原因、事業主の方針などを労働者に対して周知・啓発するための研修を実施すること
  • 就業規則などの規定にハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること

企業がパワハラに対して厳しい姿勢をとる旨を周知するほかハラスメントに対する正しい知識を周知することで、社内におけるパワハラの抑止力につながります。

なお、パワハラ防止法30条の3第2項ではこれについて、次のように定められています。

  • 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備

事業主は、パワハラに関する労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(パワハラ防止法30条の2 1項)。

具体的には、相談への対応のための相談窓口を定め、これを労働者に周知することなどが求められます。
この相談窓口は社内に設けることもできますが、外部の機関に相談への対応を委託することなども可能です。

なお、相談窓口を形式的に設けるだけでは足りず、その窓口で実質的に相談ができる状態としなければなりません。
また、相談窓口担当者が相談の内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすることも事業主の責務の1つです。

職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

職場でハラスメントが発生した際には、事業主は迅速かつ適切な対応をしなければなりません。たとえば次のような対応です。

  • 事実関係の迅速かつ適切な対応
  • 被害者に対する適正な配慮の措置の実施
  • 行為者に対する適正な措置の実施
  • 再発防止措置の実施

事実関係の迅速かつ適切な対応

社内でハラスメントが発生したら、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することが必要です。

たとえば、相談窓口の担当者や人事部門などが相談者と行為者の双方から事実関係を確認することなどがこれに該当します。
また、相談者と行為者の間で事実関係に関する主張に不一致があるなど事実確認が困難である場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずることも必要です。

なお、事実確認にあたっては、当事者の言い分や希望などを十分に聴くことが求められます。

被害者に対する適正な配慮の措置の実施

社内でハラスメントが発生したら、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うことが必要です。パワハラの場合の配慮措置として、次の例が挙げられています。

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪
  • 被害者の労働条件上の不利益の回復
  • 管理監督者または事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置

行為者に対する適正な措置の実施

速やかに行為者に対する措置を適正に行うことも、事業主に求められる責務の1つです。

たとえば、就業規則などのハラスメントに関する規定等に基づいて、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずることなどです。

ただし、行為の内容に対して懲戒処分の内容が重過ぎると、パワハラの加害者とされた社から懲戒処分の無効などを主張されトラブルとなる可能性があります。
そのため、懲戒処分にあたってはあらかじめ弁護士など専門家の意見を聞くようにしてください。

再発防止措置の実施

職場でハラスメントが発生した際や、ハラスメントの訴えがあったものの実際にはハラスメントが確認できなかった場合などには、再発防止策を講じることが求められます。

たとえば、ハラスメントに関する方針を改めて周知・啓発することなどがこれに該当します。

不利益取扱いの禁止

事業主は、労働者が前項の相談を行ったことや事業主による相談対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならなりません(同30条の2 2項)。

また、相談者や行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知することが求められます。

パワハラ防止法の対象範囲

パワハラ防止法の適用範囲は次のとおりです。

対象となる労働者の範囲

パワハラ防止法の対象となる労働者の範囲に制限はありません。
正規雇用労働者のほか、パートタイム労働者や契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用するすべての労働者がパワハラ防止法の対象です。

また、派遣労働者については派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も自社で雇用する労働者と同様に措置を講じる必要があるとされています。

対象となる企業の規模

パワハラ防止法が2020年6月に施行された時点では、一定の大企業のみが対象とされており、中小企業には努力義務等が課されていました。
しかし、その後2022年4月からは中小企業にも対象範囲が拡大されています。

そのため、2023年7月現在においては、企業規模によらずすべての企業がパワハラ防止法の対象です。

パワハラ防止法に違反した際の罰則

パワハラ防止法に違反をした場合、罰則はあるのでしょうか?
ここでは、パワハラ防止法に違反した場合ついて解説します。

パワハラ防止法に罰則はない

企業がパワハラ防止法に定められた責務を全うしなかったとしても、パワハラ防止法にはこれに対する罰則はありません。
しかし、厚生労働省から指導や勧告を受ける可能性はあり、その勧告に従わなかった場合にはその旨が公表される可能性があります(同33条)。

また、社内でパワハラが発生し企業が適切な対応をとらなかった場合には、労働安全衛生法上の安全配慮義務に違反する可能性があるでしょう。
労働安全衛生法の3条では、次のように企業の責務が定められています。

事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

損害賠償請求などの対象となる可能性がある

企業がパワハラに対して適切な対応をとらなかった場合は、パワハラの行為者と連帯して企業が損害賠償責任を負う可能性があります。先ほど紹介したように、実際に企業に対する賠償責任が認められた事例は少なくありません。

パワハラが発生した際に企業がとるべき対応

社内でパワハラが発生した場合、企業はどのような措置を講じればよいのでしょうか?
先ほど解説した「企業に義務付けられる措置」と重なる部分もあるものの、改めて時系列で解説します。

  • 被害者からの相談に応じる
  • 事実関係を調査する
  • 加害者の懲戒処分を検討する
  • 再発防止策を講じる

被害者からの相談に応じる

初めに、被害者からの相談に応じます。
相談は社内の窓口で対応しても、相談窓口を社外の専門家などに委託しても構いません。

なお、相談にあたってはプライバシーへの配慮が必要です。

事実関係を調査する

パワハラに関する相談を受けたら、事実関係の調査を行います。
調査は当事者双方から話を聞くことが原則ですが、双方の主張が食い違っている場合などは、第三者からヒアリングをする場合もあります。

加害者の懲戒処分を検討する

パワハラが事実である場合、加害者への懲戒処分を検討します。

ただし、懲戒処分を行う際には労使問題に強い弁護士へご相談ください。
パワハラ行為と懲戒処分のバランスが取れていないと、加害者側から処分の無効などを主張される可能性があるためです。

再発防止策を講じる

事案に区切りがついたら、パワハラの再発防止策を講じます。
たとえば、改めて社内でハラスメント防止研修を実施することなどがあります。

まとめ

パワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)は、中小企業を含むすべての事業者が対象となる法律です。
事業主には、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備や不利益取扱いの禁止などの義務が課されます。

これらの義務に違反しても、パワハラ防止法上で罰則が課されるわけではありません。
しかし、是正勧告を受けてもこれに従わない場合にはその旨が公表される可能性があるほか、民事上の損害賠償請求の対象となる可能性があります。

そのため、現時点でパワハラ防止法に対応できていない場合には、速やかに対応を進めてください。
自社のみでの対応が難しい場合には、労使問題に詳しい弁護士などの専門家へご相談ください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

伊藤 新

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。

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