公開 2024.01.09 更新 2024.01.11BusinessTopics

賃貸借契約書とは?書き方と作成の注意点を弁護士がわかりやすく解説

契約書

物や不動産を賃貸する際は、賃貸借契約書を取り交わします。

賃貸借契約書は、どのように作成すればよいのでしょうか?
また、賃貸借契約書にはどのような項目を記載する必要があるのでしょうか?

今回は、賃貸借契約書の基本や作成方法、記載項目のほか、雛形のダウンロード方法などについて弁護士が詳しく解説します。

目次
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賃貸借契約書とは?目的は?

賃貸借契約とは、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる契約です(民法601条)。
賃貸借契約の締結にあたって締結する契約書を賃貸借契約書といいます。

なお、賃貸借契約では対価の支払いが要件とされており、無償での貸し借りは賃貸借契約には該当しません。
無償の場合は、「使用貸借」として別の規定が適用されます。

賃貸借契約というと不動産をイメージすることが多いものの、物品の貸し借りも賃貸借契約の対象となります。
たとえば、有料での書籍のレンタルやバッグのレンタルなども、賃貸借契約に該当することが原則です。

ただし、契約書を取り交わす賃貸借契約は不動産に関するものが多いことから、ここでは不動産の賃貸借契約を前提として解説します。

重要事項説明書との違い

賃貸借契約書と混同されがちなものに、不動産の「重要事項説明書」があります。
重要事項説明書とは、宅建業法の規定に基づき作成される書面であり、土地建物の取引における重要な説明事項が記載されたものです(宅地建物取引業法35条)。

賃貸借契約書が貸主と借主の間で取り決めた事項を書面化したものであるのに対し、重要事項説明書は不動産会社が借主に対して説明し交付する書面である点が最大の違いです。

賃貸借契約書の作成方法

賃貸借契約書は、どのような流れで作成するとよいのでしょうか?
ここでは、不動産会社を介さずに法人が他の法人に自社物件を賃貸し、賃貸借契約を締結する前提で解説を行います。

  • オーナー側でたたき台を作成する
  • 賃借人と条件交渉をする
  • 賃貸借契約書を取り交わす

オーナー側でたたき台を作成する

はじめに、不動産の貸主(オーナー)側が契約書のたたき台を作成します。
たたき台は貸主と借主のいずれが作成しても構いませんが、貸主側で作成することが一般的です。

なお、当事務所のメールマガジンにご登録いただくと、賃貸借契約書の雛形を無料ダウンロードすることが可能です。
自分でたたき台を作成することが難しい場合は、ぜひ弁護士監修の雛形をご活用ください。

また、国土交通省では「賃貸住宅標準契約書」を公表しているため、賃貸する不動産が住宅用である場合はこちらを活用することも1つの手です。

賃借人と条件交渉をする

たたき台が作成できたら、賃借人に契約書のたたき台を提示して、細かな条件交渉などを行います。

賃貸借契約書を取り交わす

双方が賃貸借契約書の記載内容に納得したら、双方が記名押印をして契約書を取り交わします。
賃貸借契約書は2通作成し、当事者双方が1通ずつ保管することが一般的です。

賃貸借契約書の主な記載事項と注意点

賃貸借契約書には、どのような事項を記載する必要があるのでしょうか?
ここでは、建物の賃貸借契約書の一般的な記載事項を紹介するとともに、項目ごとの注意点を解説します。

  • 賃貸借の目的物
  • 使用目的
  • 賃料、共益費の金額と支払い時期
  • 敷金、礼金など
  • 契約期間と更新
  • 禁止事項
  • 契約解除
  • 原状回復

なお、当事務所のメールマガジンにご登録いただくと、賃貸借契約書テンプレートの無料ダウンロードが可能です。
ただし、雛形はあくまでも一般的なケースを前提としたものであり、個々の事情を反映したものではありません。
個別事情に即した賃貸借契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所まで個別にご相談ください。

賃貸借の目的物

賃貸借契約書では、その賃貸借契約の目的物を特定します。
建物の場合は、所在地や家屋番号、マンションやビルの一室の場合や部屋番号を記載して特定することが一般的です。

使用目的

賃貸借契約書では、賃貸借の目的を定めます。
目的を定めていないと、借主が目的外で使用をした際に法的責任を追及することが困難となるためです。

たとえば、事務所用として貸したはずの物件で飲食店を営まれる事態や、倉庫として貸したはずの物件に人が居住するような事態は予期せぬトラブルの原因となり得るため、貸主としては避けたいことでしょう。
そのため、契約書ではその建物の利用目的に応じて「飲食店を営むため」や「事務所として利用するため」、「事業用(飲食店を除く)」など、できるだけ具体的に定めます。

一方、借主としては契約書の目的が自身の希望する使用目的と沿っていることを必ず確認してください。
たとえば、店舗として使用する物件を借りるに際し、口頭では「店舗として使ってよい」といわれているものの、契約書に記載の目的が「居住用」となっている場合は、後に無断での目的外使用であるなどと指摘されトラブルの原因となるおそれがあります。

賃料、共益費の金額と支払い時期

賃貸借契約書では、賃料や共益費など借主が貸主に対して定期的に支払うべき金銭と、支払い時期について明記します。
また、支払方法についても定めておきましょう。
銀行振込とすることもありますが、支払い遅延を避けるため口座振替を活用することもあります。

なお、賃料の増額請求をすることは法的に認められているため、契約書に記載しないからといってできないわけではありません。
しかし、増額請求をした際に借主に納得してもらいやすくするため、増額の可能性がある旨を記載しておくことをおすすめします。

一方、借主側としてはこのような規定がないからといって増額される可能性がないわけではないため、物価上昇時には心づもりが必要です。

敷金、礼金など

敷金や保証金、礼金などを授受する場合は、賃貸借契約書でそれぞれの金額と取り扱いについて明記します。

これらは、次の金銭を指すことが一般的ですが、地域によって異なることがあります。
そのため、名称のみを記載するのではなく、その性質や取り扱いについても契約書に明記することをおすすめします。

  1. 敷金:契約終了時に返還される金銭。家賃を滞納された際に貸主の判断で家賃に充当したり、借主が負担すべき原状回復費用を差し引いたりすることもある。
  2. 礼金:貸主に支払う「お礼」としての金銭であり、原則として返還されない。
  3. 保証金:敷金と同じ意味合いで使われることもあるが、一部が礼金のように取り扱われたり償却されたりして返還されないこともある。地域によって取り扱いが特に異なる。

契約期間と更新

賃貸借契約書では、契約期間と更新について定めます。
なお、一般的な賃貸借契約である「普通借家契約」で期間を1年未満とした場合は期間の定めのない契約とみなされるため、注意が必要です(借地借家法29条1項)。

また、その契約が借地借家法の適用対象となる場合、賃貸借契約は自動的に更新されることが原則です。
また、貸主側から賃貸借契約を終了させるには、契約期間満了の半年から1年前までに更新拒絶の通知をしなければなりません(同26条)。

契約更新をしないことを原則としたい場合は普通借家契約ではなく、更新のない「定期借家契約」とすることも検討するとよいでしょう。

禁止事項

賃貸借契約書では、禁止事項を明記します。
禁止事項として挙げられることの多い項目は、次のものなどです。

  • 目的外利用の禁止
  • ペットの禁止
  • 転貸の禁止
  • 他の入居者に迷惑をかける行為の禁止

その他、物件によっては共用部での喫煙を禁止としたり、楽器の演奏を禁止したりする場合もあります。
貸主として禁止したい項目は、できるだけ具体的に明記しておきましょう。
一方、借主としては自身の行いたいことが禁止項目に入っていないか、よく確認することをおすすめします。

契約解除

賃貸借契約書では、契約解除についても記載します。
たとえば、一定期間家賃を滞納した場合や契約に違反した場合などに解除できる旨を定めることが一般的です。
ただし、「賃料の支払いに1日でも遅れたら直ちに契約を解除する」などあまりにも厳しい条項である場合は、その項目が無効と判断されるリスクがあります。

原状回復

原状回復とは、賃貸借契約が終了した際に、その対象である建物を元の状態(原状)に戻して返還することです。
原状回復は、賃貸借契約においてトラブルの原因となることの多い項目の1つです。
そのため、賃貸借契約書ではどの範囲の原状回復が借主負担になるのかについてできるだけ詳細に定め、契約締結にあたっては双方でよく確認しておくことをおすすめします。

なお、賃貸借契約の目的が居住用である場合は、国土交通省が定めている「原状回復ガイドライン」が参考となります。

賃貸借契約書に収入印紙の貼付は必要?

印紙税法で定められた一定の文書には、収入印紙を貼付しなければなりません。
収入印紙を貼らなかったからといって契約が無効になるわけではないものの、本来納めるべきであった印紙税額の3倍相当額の過怠税の対象となります。

では、賃貸借契約書に収入印紙の貼付は必要なのでしょうか?
最後に、契約書の種類に応じて解説します。

建物の賃貸借契約書

建物の賃貸借契約書は印紙税の課税対象文書に該当せず、原則として収入印紙を貼付する必要はありません。

また、建物の賃貸借契約書にその建物の敷地である土地の面積などに関する記載があったとしても、これだけで土地の賃貸借契約書に該当するわけではなく、原則どおり印紙税は非課税です。
ただし、例外的に建物が対象なのではなくその敷地についての賃貸借契約を結んだことが明らかである場合は、次で解説する「土地の賃貸借契約書」に該当します。

なお、国税庁のホームページにおいて「貸しビル業者などが、ビルなどの賃貸借契約またはその予約契約を締結する際などに、そのビルなどの賃借人から建設協力金または保証金などの名目で一定の金銭を受け取り、そのビルなどの賃貸借期間に関係なく一定期間据置き後、一括返還または分割返還することを約する場合」が例示されており、これは印紙税の課税対象である「消費貸借に関する契約書」に該当します。

そのため、純粋な建物賃貸借契約であれば印紙税は非課税であるものの、契約にその他の要素が含まれている場合はあらかじめ管轄の税務署へ相談するなどして確認してください。

土地の賃貸借契約書

土地の賃貸借契約書は、印紙税の課税対象文書です。
印紙税額は、契約金額に応じてそれぞれ次のとおりです。

左右にスワイプできます
契約金額 印紙税額
1万円未満 非課税
10万円以下 200円
50万円以下 400円
100万円以下 1,000円
500万円以下 2,000円
1,000万円以下 1万円
5,000万円以下 2万円
1億円以下 6万円
5億円以下 10万円
10億円以下 20万円
50億円以下 40万円
50億円超 60万円
契約金額の記載のないもの 200円

なお、契約金額について、国税庁のホームページに「契約に際して相手方当事者に交付し、後日返還されることが予定されていない金額です。したがって、保証金、敷金等や契約成立後における使用収益上の対価ともいうべき賃貸料は記載金額には該当しません」との記載があります。

駐車場の賃貸借契約書

駐車場の賃貸借契約書に印紙税がかかるかどうかは、それぞれ次のとおりです。

  • 駐車する場所としての土地を賃貸借する場合:「土地の賃貸借契約書」に該当し、印紙税の課税対象
  • 駐車場の一定の場所に駐車することの契約の場合:印紙税は課税されない
  • 車庫を賃貸借する場合:印紙税は課税されない
  • 車の寄託(保管)契約の場合:印紙税は課税されない

まとめ

賃貸借契約書とは、不動産や物品を賃貸して対価を得る際に取り交わす契約書です。
賃貸借契約書を作成する際はその目的を明記し、特にトラブルとなりやすい禁止事項や原状回復などについて明確に定めておきましょう。

なお、当事務所のメールマガジンにご登録いただくと、賃貸借契約書雛形の無料ダウンロードが可能です。
ただし、雛形はあくまでも一般的なケースを前提としたものであり、個々の事情を反映したものではありません。
個別事情に沿った賃貸借契約書の作成をご希望の際は、Authense法律事務所まで個別にご連絡ください。

記事執筆者

Authense法律事務所
弁護士

伊藤 新

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。

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