監査等委員会は株式会社に設置できる機関の一つであり、取締役による業務執行の適法性や妥当性を監査する役割を担います。
取締役会などとは異なり、この監査等委員会の開催頻度には「3か月に1度以上」などの制限はありません。
しかし、適切に職務を全うするためには1か月から2か月に1回程度の開催が望ましいでしょう。
では、監査等委員会の年間スケジュールはどのように検討すればよいのでしょうか?
今回は、監査等委員会の年間スケジュールの考え方について、スケジュールの一例を挙げつつ弁護士が詳しく解説します。
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監査等委員会が設置される「監査等委員会設置会社」とは
監査等委員会が設置される株式会社を「監査等委員会設置会社」といいます(会社法2条11号の2)。
はじめに、監査等委員会設置会社の概要を解説します。
監査等委員会設置会社の組織形態
監査等委員会設置会社は、取締役会と会計監査人を置かなければなりません(同327条1項3号、同5項)。
その一方で、監査等委員会には監査役を置くことはできません(同4項)。
つまり、監査等委員会設置会社の組織形態は、「取締役会+監査等委員会+会計監査人」となります。
監査等委員会設置会社で監査等委員会の独立性を確保するための規定
監査等委員会は、取締役による業務執行の適法性や妥当性を監査する役割を担います。
監査等委員会がこの役割を適切に遂行するためには、監査等委員会の独立性が保たれていなければなりません。
監査等委員会の独立性を保つために設けられている主な規定は次のとおりです。
- 監査等委員である取締役の選任や解任は、他の取締役と区別して決議する(同329条2項)
- 監査等委員である取締役の報酬は、他の取締役と区別して決議する(同361条2項)
- 取締役が監査等委員の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査等委員会の同意を得なければならない(同344条の2第1項)
- 監査等委員である取締役の解任の決議は、特別決議による(同3項)
監査等委員会の基本
次に、監査等委員会の基本について解説します。
監査等委員会の構成員
監査等委員会は、その株式会社の取締役から構成されます。
監査等委員である取締役は株主総会の決議によって選任されますが、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して選任することが必要です(同329条1項・2項)。
監査等委員である取締役は3人以上が必要であり、その過半数は社外取締役でなければなりません(同331条6項)。
監査等委員会の主な役割
監査等委員会は、主に次の職務を担います。
- 取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役と会計参与)の職務の執行の監査及び監査報告の作成
- 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定
- 監査等委員である取締役以外の取締役の選任・解任・辞任に関する事項や、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等に関する監査等委員会の意見の決定
監査等委員会の決議
監査等委員会の決議は、議決に加わることができる監査等委員の過半数が出席し、その過半数をもって行います(同399条の10第1項)。
ただし、決議について特別の利害関係を有する監査等委員は議決に加わることができません(同2項)。
なお、監査等委員会の決議を省略できる旨の規定がないため、監査等委員会の決議は省略することができません。
監査等委員会の年間スケジュールの考え方
取締役会などとは異なり、監査等委員会の開催頻度について「3か月に一度以上」など法令の定めはありません。
そのため、基本的には報告や決議が必要となるタイミングで監査等委員会を開催することとなります。
監査等委員会が適切に職務を全うするためには、1か月から2か月に一度程度の開催が望ましいでしょう。
監査等委員会の年間スケジュール例
監査等委員会の年間スケジュールの一例と考え方は、次のとおりです。
なお、ここでは3月決算であることを前提として解説します。
日程 | 法定期間・期限 | 手続 |
---|---|---|
6月末 | 定時株主総会終了 監査等委員会の議長・特定監査等委員会(※)・ 常勤の監査等委員(任意に選定する場合)・選定監査等委員(※)の選定決議 監査等委員の報酬協議(※) |
|
7月頃 | 監査方針・計画決議 会計監査人の監査計画報告 |
|
9月頃 | 期中監査活動報告 | |
12月頃 | 会計監査人中間監査結果報告 期中監査・中間結果報告 |
|
2月頃 | 期中監査活動報告 監査等委員以外の取締役の人事・報酬に関する意見形成形議(※) |
|
4月頃 | 期中監査・期末結果報告 監査等委員である取締役の選任同意(※) 会計監査人の監査報酬同意(※) |
|
5月頃 | 会計監査人の会計監査報告 期末監査結果報告 監査等委員会監査報告作成決議(※) 会計監査人の任免決議(※) 株主総会提出議案及び書類確認報告(※) 都度 利益相反取引の承認決議(※) |
1~2か月に1回:期中監査活動報告
期中監査報告とは、個々の監査等委員が期中に行った監査活動状況について、監査等委員会に対して行う報告です。
監査等委員会から選定された監査等委員は、個々に監査活動を行います。
その監査の実施状況や結果を共有して意見形成に役立てるため、期中の監査活動報告が必要となります。
期中監査報告を行う頻度や開催回数について、会社法などに定めがあるわけではありません。
しかし、監査役会がその職務を全うするため、おおむね1か月から2か月に一度の頻度で開催されることが多いでしょう。
期中監査活動報告のための監査等委員会を個別で開催することもありますが、他の決議や報告を主目的とした監査等委員会の場で、併せて期中監査活動報告を行うことも少なくありません。
6月末:監査等委員会の議長選任等
株主総会が終わり、新体制となってすぐに監査等委員会を開催します。
実務上は、新たに選任された監査等委員会が揃っていることの多い株主総会当日に、そのまま監査等委員会を開催するケースが多いようです。
この監査等委員会では、次の事項について決議や協議を行います。
監査等委員会議長の選定決議
新体制になって最初に開催する監査等委員会では、監査等委員会の議長を選定します。
監査等委員会の議長は定款や委員会規程であらかじめ定めることもできますが、この定めがない場合には監査等委員会にて選定します。
監査等委員会の議長は、監査等委員会の招集や運営などを行います。
ただし、会社法では各監査等委員が監査等委員会を招集することとされており、議長が選定されたことを理由に他の監査等委員が監査等委員会を招集できなくなるわけではありません。
特定監査等委員の選定決議
特定監査等委員とは、監査等委員会による監査等委員会監査報告の通知などを受ける監査等委員です。
特定監査等委員を選定しておくことで、一定の報告や通知を特定監査等委員に対してのみ行えばよいこととなるため、事務負担の軽減へとつながります。
特定監査等委員には議長と同一の者が選任されることが一般的であり、監査等委員会議長の選定と同時に行われることが多いでしょう。
常勤の監査等委員の選定決議
監査役会設置会社では、監査役の中から常勤監査役を選定しなければならないとされています(同390条3項)。
一方、監査等委員には同様の規程はなく、常勤の監査等委員を選任する義務はありません。
しかし、常勤の監査等委員を任意に選定することは可能であり、監査の実行性を確保する観点からすれば、常勤の監査等委員を選定しておくことが望ましいでしょう。
選定監査等委員の選定決議
監査役と監査等委員の大きな違いは、職務権限の帰属です。
まず、監査役会が設置されている場合であっても監査役の権限は独任制であり、個々が監査の職務権限を有しています(同381条)。
一方、監査等委員は単独での監査権限を持っていない状態がデフォルトであり、監査権限を有しているのは監査等委員会です(同399条の2第3項)。
そのため、監査等委員が監査権限を行使するためには監査等委員会から選定され、職務権限を委譲されなければなりません(同399条の3)。
この選定監査等委員は、株主総会後初めて開催される監査等委員会で選定されることが一般的です。
監査等委員の報酬協議
監査等委員である取締役の報酬は、その他の取締役の報酬とは区別のうえ、定款や株主総会の決議で定められます(同361条1項・2項)。
この場合において、個々の監査等委員の報酬までを定款や株主総会で定めることはできるものの、一般的には報酬の総額のみを決めることが多いでしょう。
その場合には、個々の監査等委員の報酬は監査等委員の協議によって定めます(同3項)。
この報酬に関する協議も、株主総会後初めて開催される監査等委員会で行われることが一般的です。
7月頃:監査方針・監査計画の決議等
株主総会で新体制となってからおおむね1か月後である7月の監査等委員会では、次の事項の決議や報告がなされます。
監査方針・監査計画の決議
監査等委員会が担う主な職務は、取締役や会計参与の職務執行の監査と監査報告の作成です(同399条の2第3項)。
この職務を適切に遂行するため、その年度における監査方針や監査計画の策定を行います。
新体制となってから速やかに監査方針や監査計画の検討を開始し、おおむね1か月後である7月の監査等委員会で決議がなされることが多いでしょう。
会計監査人による監査計画の報告
監査等委員会設置会社には、会計監査人の設置義務があります(同327条5項)。
そして、監査等委員会設置会社では会計監査人が計算書類などの監査を行い、その会計監査人による監査の妥当性を監査等委員会が判断します(同436条2項)。
そのため、両者の会計監査人が策定した監査計画を監査等委員会にて報告したうえで意見交換を行い、両機関の連携を図ります。
12月頃:会計監査人の中間監査報告等
11月から12月頃に開催される監査等委員会では、次の報告などを行います。
会計監査人の中間監査報告
11月から12月頃の監査等員会では、会計監査人から中間監査結果報告を受けることが一般的です。
監査等委員会は期末時点において、会計監査人による監査活動の妥当性を判断しなければなりません。
そのため、中間決算の時期に合わせてこの時点までの監査結果について報告を受け、期末監査報告へ向けて課題の共有や意見交換などを行います。
期中監査・中間結果報告
個々の監査等委員が行う監査活動について定期的に監査等委員会に報告すべきであることは、先ほど解説したとおりです。
そのうえで、中間決算の時期でもある11月から12月頃にこの時点までの監査結果を取りまとめ、監査等委員会において報告を行います。
この中間結果は、代表取締役など監査を受ける部門に対してフィードバックされることが一般的であり、以降の業務執行に活用することが期待されます。
2月頃:人事・報酬等に関する意見形成
3月決算の会社の場合、人事に関する事項は2月から3月に開催される取締役会で決議されることが多いでしょう。
これ以前に監査等委員会を開催し、人事などに関する意見形成を行います。
なぜなら、監査等委員は株主総会において次の事項について意見を述べることができるとされているためです。
- 監査等委員である取締役以外の取締役の選任・解任・辞任について(同342条の2第4項)
- 監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について(同361条6項)
これらに関する意見形成をするにあたって、監査等委員会を開催する必要があります。
ただし、報酬についてはこの時期ではなく、株主総会直前の監査等委員会で意見形成がされることも少なくありません。
4月頃:監査等委員である取締役の選任同意等
4月頃に開催する監査等委員会では、次の内容について同意や報告がなされます。
この辺りから、株主総会を特に意識したスケジュールを設定する必要があるでしょう。
期中監査・期末結果報告
次年度の最初である4月に開催する監査等委員会では、年度を通して行った監査結果の報告を行うことが一般的です。
ここでは年度中の監査実績を整理し、指摘事項や監査結果などの取りまとめを行います。
監査等委員である取締役の選任同意
監査等委員である取締役は、株主総会の決議によって選任されます(同329条1項)
ただし、監査等委員である取締役の選任に関する議案を取締役が株主総会に提出するにあたっては、監査等委員会の同意を得なければなりません(同344条の2第1項)。
また、監査等委員会は取締役に対し、監査等委員である取締役の選任を株主総会の目的とすることや、監査等委員である取締役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができます(同2項)。
そのため、取締役会が株主総会の議案を決定する前に監査等委員会を開催し、これらの事項について審議することが必要です。
会計監査人の監査報酬同意
会計監査人の報酬等を定める場合には、取締役は監査等委員会の同意を得なければなりません(同399条1項・3項)
そのため、監査等委員会はこれについて審議する必要があります。
5月頃:期末監査報告等
株主総会が間近に迫った5月頃の監査等委員会では、次の報告や決議などがなされます。
また、この時期には株主総会に備えて決議や報告すべき事項が多いため、複数回にわたって監査等委員会が開催されることもあります。
会計監査人の会計監査報告
会計監査人は、株式会社の計算書類等を監査し、会計監査報告を作成しなければなりません(同396条1項)。
さらに、監査等委員会が選定し監査等委員は、会計監査人に対して監査報告を求めることが可能です(同397条2項・4項)。
そのため、5月頃に開催する監査等委員会において、会計監査報告が行われることが多いでしょう。
期末監査結果報告
事業年度末日から監査報告作成日までの約2か月間において行われる監査を期末監査といいます。
期末監査では、期末決算の監査や事業報告の監査、監査等委員会による監査意見の形成などを行います。
監査等委員会監査報告作成決議
監査等委員会には、監査報告を作成する義務があります(会社法399条の2第3項)。
この監査報告には、監査等委員会による監査の方法・内容のほか、事業報告や附属明細書が法令や定款に従い会社の状況を正しく反映していることに関する意見など、所定の事項を盛り込まなければなりません。
監査報告の内容は、監査等委員会が決議をして定める必要があります(会社計算規則128条の2第2項)。
会計監査人の任免決議
会計監査人は、株主総会の決議によって選任されます(会社法329条1項)。
ただし、株主総会に提出する会計監査人の選任・解任・再任に関する議案の内容の決定は監査等委員会の職務の一つであり、取締役会がこれらの議案を株主総会に提出するにあたっては、監査等委員会の決定を経なければなりません(同399条の2第3項2号)。
そのため、取締役会が株主総会の議案を決定する前に監査等委員会を開催する必要があります。
株主総会提出議案と書類の確認
監査等委員は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものについて法令や定款に違反し、または著しく不当な事項があると認めるときは、その旨を株主総会に報告しなければなりません(同399条の5)。
そのため、株主総会に提出される議案や書類について、あらかじめ監査や審議を行う必要があります。
都度:利益相反取引の承認
取締役会設置会社の取締役が利益相反取引をしようとする際には、取締役会の承認を受けなければなりません(同365条1項、356条1項)。
監査等委員会による利益相反取引の承認はこの取締役会による承認に代わるものではないものの、監査等委員会の承認を経た場合にはその取締役の任務懈怠が推定されないこととなります(同423条4項)。
そのため、監査等委員会設置会社において取締役が利益相反取引をしようとする際には、まず監査等委員会に承認を求めることとなるでしょう。
この承認が必要となり、次回開催予定の監査等委員会を待てない場合などには、その都度監査等委員会を開催することとなります。
まとめ
監査等委員会の開催頻度について、会社法による規定はありません。
そのため、年間の開催スケジュールは、監査等委員会に報告すべき事項や監査等委員会が決議などをすべき事項が発生するタイミングに合わせて設定することが一般的です。
そのうえで、利益相反取引の承認など必要性が生じた際に、臨時で招集することが多いでしょう。
監査等委員会の運営やスケジュールの検討に不安がある場合などには、機関法務に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
記事監修者
山口 広輔
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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