公開 2023.09.08 更新 2023.10.03BusinessTopics

監査役会の年間スケジュールを弁護士がわかりやすく解説

会社法

監査役会はその会社のすべての監査役から組織される機関であり、監査報告の作成や監査方針の決定などの職務を担います(会社法391条1項、2項)。

取締役会とは異なり、監査役会は会社法上に開催頻度などの規定はありません。
しかし、職務を適切に遂行するためには、1か月に一度は開催することが望ましいでしょう。
監査役には、取締役会への出席義務があることから(同法383条1項)、毎月開催されている取締役会と同じ日に監査役会を開催している会社が多いと思います。
また、定時株主総会などのスケジュールから逆算をして同意や決議をすべき事項も存在します。

そこで今回は、監査役会の基本や監査役会スケジュールの考え方、年間スケジュールの一例などについて弁護士が詳しく解説します。

目次
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監査役会の基本

はじめに、監査役会の基本について確認しましょう。

監査役会の設置義務がある会社形態

会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社)は、監査役会の設置義務があります(同法328条1項)。
ただし、大会社であっても、非公開会社は、監査役会を設置する必要がなく、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査機能を有する委員会が設置されることから、監査役を置くことが禁止されており(同法327条4項)、その結果監査役会も設置されないことになります。

また、設置義務のない会社であっても、定款に定めを置くことで監査役会を設置することが可能です。
ただし、監査役会を設置する場合には、取締役会を設置しなければなりません(同法327条1項)。

監査役会の構成員

監査役会の構成員は、その会社のすべての監査役です(同法390条1項)。
そして、監査役会設置会社における監査役は、3人以上でなければならず、監査役の半数以上は、社外監査役でなければならないとされています(同法335条3項)。

監査役会の決議

監査役会の決議は、監査役の過半数をもって行われます(同法393条1項)。
なお、監査役会には定足数の定めはありません。

監査役の職務と権限

監査役会の構成員である個々の監査役の職務と権限は次のとおりです。

原則

監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役と会計参与)の職務の執行を監査します(同法381条1項)。
原則として、この監査の対象は会計監査と業務監査を含む職務全般に及びます。

一定の非公開会社の場合

一定の非公開会社は、定款に定めを置くことで、監査役の監査範囲を会計に関する事項に限定することが可能です(同法389条1項)。
この場合には会計監査のみが監査役の監査対象となり、業務監査は監査対象から外れます。

監査役会の年間スケジュールの考え方

監査役会の開催頻度について、会社法などに規定があるわけではありません。
ただし、監査役会が担う役割を適正に遂行するためには、1か月に一度は監査役会を開催することが望ましいでしょう。

また、株主総会提出議案の確認や監査役の選任同意など、定時株主総会のスケジュールから逆算して決議等をすべき事項も存在します。
そのため、監査役会の年間スケジュールは監査役会単体で設定するのではなく、株主総会や取締役会など他の機関のスケジュールとすり合わせをしつつ検討する必要があるでしょう。

監査役会の年間スケジュール例

監査役会の年間スケジュールの一例は次のとおりです。
監査役会が滞りなく職務を遂行できるよう、自社に合ったスケジュールを設定しましょう。

左右にスワイプできます
日程 法定期間・期限 手続
6月末 定時株主総会終了 
監査役会議長・特定監査役(※)・常勤監査役(※)の選定決議
監査役の報酬協議(※)
監査方針・計画決議(※)
会計監査人の監査計画報告
8月頃 期中監査活動報告
9月頃 期中監査活動報告
10月頃 期中監査活動報告
11月頃 期中監査活動報告
12月頃  会計監査人中間監査結果報告
期中監査・中間結果報告
1月頃 期中監査活動報告
2月頃 期中監査活動報告
3月頃 期中監査活動報告
4月頃 期中監査・期末結果報告
監査役の選任同意(※)
会計監査人の監査報酬同意(※)
5月頃 会計監査人の会計監査報告
期末監査結果報告
監査役会監査報告作成決議(※)
会計監査人の任免決議(※)
株主総会提出議案及び書類確認報告(※)

1か月に1回:期中監査活動報告

期中監査報告とは、個々の監査役が行った監査活動について、監査役会に対して行う報告です。

監査役は個々がその機関としての役割を持つ独任制とされていますが、実際には監査業務を監査役ごとに分担して行うことが一般的です。
そのため、個々の監査役が行った監査情報を共有し意見形成に役立てるため、期中の監査報告を行います。

会社法上、この期中監査報告について開催頻度や開催回数について定めがあるわけではありません。
しかし、監査役会がその職務を全うするため、おおむね1か月に一度の頻度で開催されることが多いでしょう。

6月末:監査役会議長の選定等

株式会社が3月決算である場合、定時株主総会は6月頃に開催されることが多いでしょう。
この株主総会の終了後に、監査役会を開催します。

株主総会には、取締役及び監査役が全員出席していることが多いため、実務上は株主総会終了後に、臨時取締役会が開催され、その直後に監査役会が開催されることも少なくありません。
この監査役会では、次の決議や協議がされることが一般的です。

監査役会議長の選定

この監査役会では、監査役会議長の選定を行います。
監査役会議長は、監査役会の招集や運営を担います。
実務上、常勤監査役が選任されることが一般的です。

ただし、会社法上は各監査役が監査役会を招集することとされており、議長の選定を理由に他の監査役による監査役会の招集が妨げられるものではありません(同法391条)。
なお、定款などであらかじめ監査役会議長を定めておくことも可能です。

特定監査役の選定

特定監査役とは、監査役会監査報告の内容などを通知すべき監査役です。
特定監査役の選定は任意ですが、選定する場合には株主総会直後の監査役会で選定されることが多いでしょう。
この特定監査役には、常勤監査役が選定されることが一般的です。

常勤監査役の選定

常勤監査役の定義は会社法にはありませんが、一般的には兼業を持たずその会社の職務に専念する監査役を指します。

監査役会は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければなりません(同法390条3項)。
常勤監査役の人数までは規定されておらず、実務上は1人ないしは2人を選定することが多いようです。

常勤監査役も株主総会直後の監査役会で選定されることが一般的です。

監査役報酬の協議

監査役の報酬は定款で定めるか、株主総会の決議によって定めます(同法387条1項)。
定款や株主総会では個々の監査役の報酬を定めることもできますが、監査役全体の報酬のみを定めることも可能です。

監査役が2人以上ある場合において、定款や株主総会では監査役全体の報酬のみを定めたときは、個々の監査役の報酬等は監査役の協議によって定めます(同法2項)。
この協議は、株主総会直後の監査役会で行われることが一般的です。

6月末頃:監査方針と計画の決議等

株主総会直後の監査役会、もしくは4月の事業年度初の監査役会で、次の決議や報告が行われることが多いでしょう。

監査方針と計画の決議

「監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定」は、監査役会が担う職務の1つです(同法390条2項3号)。
この職務を遂行するため、監査方針と監査計画を定め、監査役会で決議を行います。

なお、監査役会で決議された監査方針や監査計画は、その後取締役会で報告をすることが一般的です。
そのため、この報告をする取締役会のスケジュールも踏まえて監査役会のスケジュールを検討する必要があります。

会計監査人の監査計画の報告

会社法上の大会社は、会計監査人を置かなければなりません。
そして、監査役は会計監査人から報告を受けたり会計監査人の監査の妥当性を判断したりするなど、両者の連携は不可欠です(同法397条1項、436条2項)。
そのため、定時株主総会の翌月(7月)頃に行う監査役会で、会計監査人が監査計画の報告をすることが多いでしょう。

12月頃:会計監査人の中間監査結果報告等

11月または12月頃に行う監査報告では、次の報告がなされることが一般的です。

会計監査人による中間監査結果報告

会計監査人が設置されている場合には、11月から12月頃に、会計監査人から中間監査の結果報告を受けることが通例です。

中間監査報告の時期について、法令で定めがあるわけではありません。
ただし、監査役が期末時点で会計監査人の監査方法や監査結果の相当性を適切に判断するためには、期中から報告を求めておくことが有効です。
そのため、中間決算の時期に合わせて、この時点までの監査結果について報告を受けることが多いでしょう。

期中監査の中間結果報告

個々の監査役が行った監査活動について、定期的に監査役会に対して報告(期中監査活動報告)をすべきことは、先ほど解説したとおりです。
そして、中間決算のタイミングである11月から12月頃には、この時点までの監査結果を取りまとめ監査役会で中間結果の報告を行います。

この中間結果は代表取締役など監査を受ける部門にも報告されることが一般的であり、期中に報告を受けることで以降の業務執行に反映させることが期待されます。

4月頃:監査役の選任同意等

新たな事業年度が開始した4月に開催する監査役会では、次の報告や同意が行われることが多いでしょう。

期中監査・期末結果報告

事業年度終了直後である4月に開催する監査役会では、年度を通して行った監査結果の報告を行います。
ここでは、各監査役による年間の監査活動の結果を取りまとめるとともに、監査報告に向けた監査役会による意見形成がなされます。

なお、先ほども解説したように監査役は独任制であり、必ずしも監査役間の意見を一致させなければならないわけではありません。

監査役の選任同意

監査役を含む役員は、株主総会の決議によって選任されます(同法329条1項)。
そして、取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するためには、監査役(監査役会設置会社の場合には、監査役会)の同意を得なければなりません(同法343条1項、3項)。

株主総会を開催する際には原則としてその2週間前までに招集通知を発しなければならず、さらにこれ以前に取締役会により議案などを決定することが必要です(同法299条)。
そのため、監査役の選任同意を行う監査役会は株主総会の開催日から逆算をして、これに間に合うようにスケジュールを設定しなければなりません。

会計監査人の報酬同意

会計監査人の報酬は、会社と会計監査人との合意によって定められます。
しかし、会計監査人は会社の計算書類等を監査する役割を担っており、このような立場である会計監査人の報酬を会社と会計監査人のみで定めることは望ましくありません。

そのため、取締役が会計監査人の報酬を定める場合には、監査役(監査役会設置会社の場合には、監査役会)の同意を得なければならないとされています(同法399条1項、2項)。
この同意も、4月頃に開催される監査役会で行われることが多いでしょう。

なお、公開会社では会計監査役の報酬について監査役会が同意をした理由を、事業報告の内容としなければならないとされています(会社法施行規則126条1項2号)。

5月頃:期末監査報告の作成決議等

定時株主総会以前、5月頃に開催される監査役会では、次の決議や報告が行われます。
この時期は株主総会の準備もあり、複数回の監査役会が開催される場合もあります。

会計監査人による会計監査報告

会計監査人は、株式会社の計算書類や附属明細書等を監査し、会計監査報告を作成しなければなりません(会社法396条1項)。
そのうえで、作成した会計監査報告を特定監査役及び特定取締役に通知する必要があります(会社計算規則130条1項)。

なお、実際には特定監査役への通知のみならず、監査役会での報告や意見交換がなされることが多いでしょう。

期末監査結果報告

一般的に、事業年度末日から監査報告までの間に行われる監査は「期末監査」と呼ばれます。
期末監査では、期末決算の監査や事業報告の監査などを行い監査役会で報告がなされます。

監査役会監査報告の作成決議

監査報告の作成は、監査役会の重要な職務の1つです(会社法390条2項1号)。
監査役会監査報告は、次に掲げる事項を内容とするものでなければなりません(会社法施行規則130条2項)。

  • 監査役と監査役会の監査の方法と、その内容
  • 事業報告とその附属明細書が法令や定款に従いその株式会社の状況を正しく示しているかどうかについての意見
  • 株式会社の取締役の職務の遂行に関して不正の行為や法令・定款に違反する重大な事実があったときは、その事実
  • 監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨とその理由
  • いわゆる内部統制システムの整備に関して、その内容が相当でないと認めるときは、その旨とその理由
  • 会社の支配に関する基本方針に関する事項や、親子会社間取引に関する一定の事項に関する意見
  • 監査役会監査報告を作成した日

また、監査役会監査報告を作成する場合には、監査役会は1回以上の会議(オンライン会議等を含む)を行い、監査役会監査報告の内容を審議しなければならないとされています(同条3項)。

会計監査人の任免決議

会計監査人は、株主総会の決議によって選任されます(会社法329条1項)。
ただし、会計監査人は会社の計算書類等を監査する役割を担っていることから、監査対象である業務執行側が自分にとって都合の悪い会計監査人を排除する事態は避けなければなりません。

そこで、株主総会に会計監査人の選任や解任、会計監査人を再任しないことに関する議案を提出する際には、監査役会の決定を経ることが必要とされています(同法344条1項、3項)。

株主総会提出議案と書類の確認

監査役は取締役が株主総会に提出しようとする議案や書類などを調査しなければならならず、法令や定款に違反する事項や著しく不当な事項があると認めるときは、調査の結果を株主総会に報告しなければならないとされています(同384条)。

そのため、株主総会に提出される予定である議案などをあらかじめ確認のうえ、監査しなければなりません。
この監査自体は個々の監査役が行うこととなるものの、必要に応じて監査役会に報告をしたり監査役会で審議をしたりすることとなります。

まとめ

監査役会の年間スケジュールについて解説しました。

監査役会の開催頻度や開催時期自体は法令で具体的に定められているわけではありません。
しかし、監査の実行性を確保するためには1か月に一度は監査役会を開催することが望ましいでしょう。

また、監査役の選任同意など、株主総会のスケジュールから逆算して設定すべきものも存在します。
そのため、監査役会の年間スケジュールは監査役会単独で検討するのではなく、株主総会や取締役会など他の機関におけるスケジュールと併せて検討することが必要です。

監査役会のスケジュール設定や株式会社の機関設計などを自社のみで行うことに不安がある場合には、機関法務に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

森中 剛

(第二東京弁護士会)

一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。

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