あらゆる動物を自分の肉体だけを武器に倒せると豪語する「百獣の王」キャラで、芸能界で独自のポジションを確立する武井壮氏。アスリート出身のタレントは数え切れないほど存在する中、一線を画したタレント像を表現し続けている。
「有名になりたい」。この思いが最終ゴールであることが多い芸能界の中、「有名になることは手段。自分の仕事の本質は広告業」と武井氏は言い切る。その真意と思いについて、話を聞いた。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/斎藤大嗣 Daishi Saito
有名になることは「手段。武井壮が考える芸能とビジネス
― 自身のビジネスについて彼はこう語る。
武井 壮氏(以下 武井氏:僕らの最大の仕事は広告なんです。広告をたくさん見てもらうために番組を作り、その番組が楽しくなるように僕らが演じ、番組を見てくれる人が増えれば広告がたくさん見てもらえる。そうなれば、サービスや商品が大きく広まることで手に取ってくれる人が増えて、その企業が利益を得る。だからまた番組を作りたいと思う、このサイクルのなかで僕らは仕事をしているんです。
― 有名になりたい、スターになりたい。彼にとってはこれが目的なのではない。あくまで手段として捉えている。エンタテインメント業界という巨大なビジネスの中で、自分自身という商品の価値を高めることで、結果的に自身が直接・間接に宣伝することになる商品・サービスの広告効果を最大化する、それこそが自分に求められているミッションなのだと語る。
武井壮。百獣の王を目指す男として一世を風靡し、現在ではドラマ、映画、CMなどにひっぱりだこ。昨今では自身の冠番組でMCも務める。数多く存在する元アスリート出身のタレントの中でも独自のポジションを築き上げ、さらなる高みに上り詰めようとしている。
大手事務所に所属することなく、自身の個人事務所で活動を続けているにも関わらず、多くのレギュラー番組を持ち、ナショナル・クライアントを始めとする多くの企業からCMのオファーが来るタレントへと成長できた背景には、自身を商品として捉え、その商品の価値をいかに高めていくのか、常に考え続けてきた時間の積み重ねがある。
武井氏:たとえば俳優さんなら自分は良いお芝居をすればいいと思っているかもしれないし、芸人さんなら面白い話をすればいいと思っているかもしれません。
でも、僕は最初から芸能界というフィールドで、個人でビジネスをしようと思ってスタートしました。
僕を商品として買ってくれる人を増やして、有名になって社会的な価値を手に入れて認知度を手に入れる。僕の一番の仕事は広告だと思っているし、番組に出るのも広告の一部だと捉えているんです。番組は広告費から制作されていて、全部スポンサーがお金を出して作っているわけですから、番組は広告であるという認識なんです。
自分のビジネスとして芸能界をマーケットに商売をしたいと思っていた
― 武井氏が本格的にタレント活動を始めたのは2012年、39歳のころだった。デビュー当時から大手事務所に所属することなく、マネージャーと二人三脚でキャリアを積んできた。
一般的にタレントとして活動するには大手事務所に所属して、その組織力を活用する選ぶ人が多いなか、なぜそのような道を選んだのだろうか。
武井氏:芸能事務所の役割を考えると、タレントのマネジメントは当然として、育成なんですよね。オーディションをしてルックスの良い人、華のある人、透明感のある人を選んで育てていくわけです。それが芸能事務所の役割のひとつで、そこには時間的な投資や知見や技術教育の投資、ほかにも所属タレントとの共演などもあって、そういう時間を経て新人がだんだんタレントになっていくんです。それが事務所の大きな役割だと思うんです。僕はそれらをひとりでやればいいと決めていました。
タレントとしての能力が自分の中にあれば、商品はあるわけだから育成してもらう必要がありません。そうなると必要なのは、スケジュール管理や一般事務の処理といったマネジメント機能です。マネージャーさえ見つかれば、あとは僕が商品を開発するだけ。そのふたつの機能さえあれば需要は生まれるし供給もできる。ならば、事務所の育成機能や他の人と共演するためのバーター機能やヒューマン・コミュニケーションの部分は番組に出て作っていけばいいと思っていたんです。
― ビジネスパーソンの人生においても、大企業に所属して巨大な組織力を背景に自身の能力をいかんなく発揮するのか、自らリスクを取って商品開発からマーケティング、営業まで自身の裁量で切り拓いていく道を選ぶのかといった決断に迫られることがある。
武井氏にとって、大手事務所に所属する必要性は感じなかった。商品を開発し、需要が生まれそうな場所にアプローチをすることで需要を喚起する。需要が生まれればあとは供給していけばいい。その発想は起業家のベンチャー・スピリットに近しい。
武井氏:芸能事務所に入ってギャラを按分してタレントとして雇用されるのがいいのか、もしくは自分のビジネスとして芸能界をマーケットとするのかという選択でした。僕は自分のビジネスとして芸能界をマーケットにして商売をしたいと思っていたので、所属して社員になる必要はないなと考えたんですよね。そんなに特別なことではないんです。
― 起業はリスク、成功するかどうかは運も含めた一種の賭け。ビジネスの世界にはそんな風潮がある。しかし武井氏の現在の成功は、周到な準備と市場調査に裏付けられた、ある程度約束されたものだった感がある。時計の針を巻き戻して、デビュー前後の時代について見てみよう。
Profile
武井 壮 氏
1973年5月6日東京生まれ。小学校時代からスポーツ理論を研究、独自のトレーニング理論を確立する。大学時代からは陸上に取り組み、短距離、十種競技の選手として活躍。日本チャンピオンとなる。将来の芸能界デビューを見据えて20代、30代を準備期間として過ごし、39歳で武井氏 : 百獣の王を目指す男。としてデビュー。テレビ、ラジオ、映画、CMなど多方面で活躍中。
- twitter: @sosotakei
- instagram: @sosotakei
- YouTube: youtube.com/user/so1054