2022 FIFAワールドカップ、サッカー日本代表のボランチとして、チームを牽引し続けた遠藤航選手。
この大会ではドイツ、スペインというサッカー強豪国を相手に「ジャイアント・キリング」を決め、日本中が沸き立った。
格上のチーム相手に勝利できたのはなぜなのか。
圧倒的に劣ったボール支配率であったにもかかわらず、勝利をつかめたのはなぜなのか。
ピッチの中央から試合全体を見渡していた遠藤選手に話を聞いた。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi
写真/©️PUMA JAPAN・西田周平 Shuhei Nishida
世界に誇るボランチも昔はひとりのサッカー少年だった
- 身長178センチ。体重76キロ。一般的な日本人の中では高身長の部類に入るかもしれないが、世界を相手に戦うアスリートとしては決して突出した体格を持っているわけではない。
サッカーは「フィールドの格闘技」とも称される。強烈なタックルで転ばされるのは当たり前。ドリブルをしていても、パスを出そうとしても、場面によってはフリーな状態であっても激しいボディコンタクトに見舞われる。
舞台がワールドカップとなれば激しさはさらに極まる。世界各国が威信をかけて大会に挑み、選手たちは皆、そのピッチに立つことを夢見て苦しい練習を続けてきた。ボールを持てば容赦なく、四方八方から屈強な選手たちが襲いかかってくる。
2022 FIFAワールドカップ日本代表のボランチ、遠藤航選手はそんな舞台で華麗なプレイを見せ続けた。
「日本人は体格に劣る。海外の選手には当たり負けしてしまう」。そんな常識を疑い、夢から逆算した目標を、地道にそして着実に歩んでいくことで、世界クラスに負けない強靭な肉体と技術を手に入れた。
遠藤 航氏(以下 遠藤氏):神奈川出身なので、中学時代には中村俊輔選手、代表選手では小野伸二選手といった選手たちをよく見ていました。当時は、フォワードやトップ下でもプレイしていたので、そういった選手たちにあこがれていました。
- 幼年期からサッカーを始め、中学生までは学校の部活でプレイ。2021年、2022年と、ヨーロッパ5大リーグのひとつであるドイツ・ブンデスリーガで2年連続のデュエル王に輝き、日本代表の中心選手として活躍する彼も、幼い頃には普通の「サッカー少年」だった。
あれからおよそ13年後。Jリーガーに憧れたサッカー少年は、背中に日の丸を背負ってカタールのピッチでプレイすることになる。
日本中が沸き立ったまさかの「ジャイアント・キリング」
遠藤氏:ワールドカップのグループ分けの抽選のとき、僕はグループEに入ってほしいと思って見ていました。抽選の様子をライブで見ていたのですが、先にドイツとスペインが同じグループに入ったのを見て、このグループはすごく面白いと思っていたんです。
- 2022 FIFAワールドカップの組み合わせが決まったとき、サッカーファンの多くが肩を落とした。ドイツとスペインといえばサッカーにおける強豪国。グループラウンドを突破して決勝トーナメントに進むためには苦しい展開となることが容易に想像された。サポーターやマスコミは「死の組」と盛んに報道したところからも当時の状況が分かる。
遠藤氏:ドイツとスペインは本当に強豪国ですから、そこが同じグループにいる、これは面白いと思ったんですよね(笑)。僕はドイツのブンデスリーガーですから、いつかドイツと試合をしたいとも思っていたんです。
もちろん勝てるのか勝てないのかはまったく別の話です。ワールドカップに出るからには、より強いチームとやりたいと思っていました。まさか本当に日本もこの組に入るとは思っていませんでしたけどね。
- 未来を生きる我々は、日本代表がドイツ、スペインという「格上の」チームを撃破し、決勝トーナメントに進出したことを知っている。日本中が沸き立った、このジャイアント・キリングを、遠藤選手はどのように捉えていたのだろう。
遠藤氏:ドイツ戦、スペイン戦は自分たちが目指していたゲームプランを実行できた試合でした。強いチームということは十分に分かっていましたが、前半はしっかり守って最低でも1失点で抑え、後半に挑むというゲームプランをチームとして持っていたんです。スペイン戦では2点取ることができ、最後は守り切れました。
- スペイン戦では前半11分に先制されるもそれ以上の失点を許さず、2点を奪い返し劇的な逆転勝利を決めた。
遠藤氏:ドイツ戦では前半と後半でやり方を変えながら逆転できました。日本にとって理想的な試合運びができたと思います。
- ドイツ戦でも先制を許しているが、後半に投入された交代選手が機能。こちらも逆転勝ちを収めている。
特筆すべきはボール支配率の低さだ。ドイツ戦での日本のボール支配率は26%。スペイン戦に至っては17%しかボールを保持していないにも関わらず勝利を収めている。
遠藤氏:ボールを持たれていると思うのか、それともボールを持たせていると思うのかで数字の意味も変わると思うんです。僕たちは相手にボールを持たれても大丈夫というメンタリティで挑んでいました。ボール支配率については気にせず、とにかくチームとしてはしっかり守ることを徹底し、チャンスがあればカウンターや一発をしっかり仕留めるという戦い方でした。そのなかで僕は守備に強みを持つ選手なので、ボランチとして自分の良さを最大限に出さなければならないと思いながらプレイしていました。
選手にしてみれば、いろいろな戦術やチームの方針があって、それを実行していく駆け引きも試合の一部なんですよね。
そこもサッカーの面白さのひとつだと思います。
― グループリーグを1位通過した日本代表は、ベスト8を賭けてクロアチアと戦うことになる。
Profile
遠藤 航 氏
中学3年時に湘南ベルマーレユースからオファーを受け、高校進学と同時に湘南ユースに入団。
2010年のJリーグデビュー以降、湘南ベルマーレ、浦和レッズで活躍。
2017年には日本代表初選出、2018年にはロシアワールドカップのメンバーに召集され、初のワールドカップメンバー入りを果たし、ジュピラー・プロ・リーグのシント=トロイデンVVへ完全移籍する。
2020年にはドイツのVfBシュトゥットガルトへ完全移籍。
2022 FIFAワールドカップでは日本代表としてチームを牽引した。
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遠藤 航著/SYNCHRONOUS BOOKS刊
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